国内

東京ガス「エネファーム」 八代亜紀のド演歌流すCMに違和の声

 日本にとって切実で重大なエネルギー問題。すべての原発が停止しつつある現在、日本人は原発に頼らない社会を選択するのかどうかを問われ、いわば分岐点に立っている。そんな状況の中で、東京ガスが力を入れて宣伝している「エネファーム」のCMに、作家で五感生活研究所の山下柚実氏は違和を感じるという。以下は、山下氏の問題提起だ。

 * * *
「何にもできない私でもガツンと節電できるのね~ 発電 節電 発節電~」

 八代亜紀のド演歌が流れるCMをご存じでしょうか。ハスキーボイスで喉を鳴らし、歌い上げる演歌。ガスを使って燃料電池で発電する、東京ガスの「エネファーム」の宣伝です。
 
 CMは、衣装から化粧、振り付けから節回しまで、コテコテの演歌尽くし。息子役の三浦春馬は、演歌を歌う母を脇から手拍子、ヨイショ。キャラクターも舞台設定も、ずいぶんと作り込んでいます。
 
  でも、なにか違和感が残る。ちょっと違うんじゃない?という感じがぬぐえない。CMを見た後、どうにも行き場のない「?」を抱いているのは、私だけでしょうか?
 
 日本にとって今、エネルギーは切実で重大な問題です。すべての原発が停止しつつある現在、私たち日本人は原発に頼らない社会を選択するのか、このまま廃炉にしても暮らしは大丈夫なのかが、鋭く問われています。重大な分岐点に立っている。
 
 そんな状況の中で、東京ガスが力を入れて宣伝している「エネファーム」とは、都市ガスの中にある水素と空気中の酸素を化学反応させて、家で発電するシステム。

 発電時の熱をお湯にして使うことも可能。遠くから電気を送る送電ロスも無い。つまり、エネルギー選択に対する、新しい提案の一つなのです。

 だから言いたい。CMのような妙なおふざけも、トリッキーでど派手な演出も、笑いを誘う必要性も無いのでは。私たちの社会にとって大事なエネルギーの選択は、おもしろおかしく表現すればいい、という次元の問題ではないはずです。

 今も福島には過酷な原発事故によって故郷や仕事を失い、多大な影響を受けて苦しんでいる人たちが大勢いる。原発に代わる代替エネルギーの提案をするCMがこれでは情けない。事故の過酷な影響や切実さが、あまりにも共有できていないのでは。

 CMを見た時の直感的な違和感とは、もしかしたら、その「つりあなわさ」「共感の不在」から来ているのかもしれません。
 
 おそらく、これまで東京ガスは「エネファーム」の利点を宣伝しても、なかなか理解してもらえなかった、というトラウマや忸怩たる思いを抱えているのでしょう。実際に、原発事故以前は電力会社が宣伝する「オール電化」に押され気味でした。しかし、だからといって、今おもしろおかしく目立てばいい、ということではないはず。

 本気で「エネファーム」の長所や特徴を伝えたいのであれば、その利便性やメッセージを、提案としてきちんと届けるCMの作り方があるのでは? 

 CMのみならず例えばシンポジウムや対話の場を企画するなど、多角的な情報発信・伝え方を工夫し、消費者に直球で訴えることが大切ではないでしょうか。

 エネルギーの選択についてしっかりと向き合い真面目に考えたい、という人は確実に増えている。このCMを見る度に、情報を的確に届ける手段はもっと別にあるはず、と思えてなりません。

関連キーワード

関連記事

トピックス

鮮やかなロイヤルブルーのワンピースで登場された佳子さま(写真/共同通信社)
佳子さま、国スポ閉会式での「クッキリ服」 皇室のドレスコードでは、どう位置づけられるのか? 皇室解説者は「ご自身がお考えになって選ばれたと思います」と分析
週刊ポスト
松田烈被告
「テレビ通話をつなげて…」性的暴行を“実行役”に指示した松田烈被告(27)、元交際相手への卑劣すぎる一連の犯行内容「下水の点検を装って侵入」【初公判】
NEWSポストセブン
Aさんの左手に彫られたタトゥー。
《10歳女児の身体中に刺青が…》「14歳の女子中学生に彫られた」ある児童養護施設で起きた“子供同士のトラブル” 職員は気づかず2ヶ月放置か
NEWSポストセブン
会談に臨む自民党の高市早苗総裁(時事通信フォト)
《高市早苗総裁と参政党の接近》自民党が重視すべきは本当に「岩盤保守層」か? 亡くなった“神奈川のドン”の憂い
NEWSポストセブン
知床半島でヒグマが大量出没(時事通信フォト)
《現地ルポ》知床半島でヒグマを駆除するレンジャーたちが見た「壮絶現場」 市街地各所に大量出没、1年に185頭を処分…「人間の世界がクマに制圧されかけている」
週刊ポスト
連覇を狙う大の里に黄信号か(時事通信フォト)
《大相撲ロンドン公演で大の里がピンチ?》ロンドン巡業の翌場所に東西横綱や若貴&曙が散々な成績になった“34年前の悪夢”「人気力士の疲労は相当なもの」との指摘も
週刊ポスト
お騒がせインフルエンサーのボニー・ブルー(インスタグラムより)
「バスの車体が不自然に揺れ続ける」“タダで行為できます”金髪美女インフルエンサー(26)が乱倫バスツアーにかけた巨額の費用「価値は十分あった」
NEWSポストセブン
イベント出演辞退を連発している米倉涼子。
《長引く捜査》「ネットドラマでさえ扱いに困る」“マトリガサ入れ報道”米倉涼子はこの先どうなる? 元東京地検公安部長が指摘する「宙ぶらりんがずっと続く可能性」
アドヴァ・ラヴィ容疑者(Instagramより)
「性的被害を告発するとの脅しも…」アメリカ美女モデル(27)がマッチングアプリで高齢男性に“ロマンス”装い窃盗、高級住宅街で10件超の被害【LA保安局が異例の投稿】
NEWSポストセブン
部下と“ラブホ密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(時事通信フォト・目撃者提供)
《ラブホ通い詰め問題でも続投》キリッとした目元と蠱惑的な口元…卒アル写真で見えた小川晶市長の“平成の女子高生”時代、同級生が明かす「市長のルーツ」も
NEWSポストセブン
韓国の人気女性ライバー(24)が50代男性のファンから殺害される事件が起きた(Instagramより)
「車に強引に引きずり込んで…」「遺体には多数のアザと首を絞められた痕」韓国・人気女性ライバー(24)殺害、50代男性“VIPファン”による配信30分後の凶行
NEWSポストセブン
本拠地で大活躍を見せた大谷翔平と、妻の真美子さん
《真美子さんと娘が待つスイートルームに直行》大谷翔平が試合後に見せた満面の笑み、アップ中も「スタンドに笑顔で手を振って…」本拠地で見られる“家族の絆”
NEWSポストセブン