ライフ

はやぶさ技術開発者 日本は地球でニートが一番楽に暮らせる国

 日本が閉塞感に覆われていると言われて久しい。現状を打破するためにはどうすればいいのか? 地球重力圏外の天体からサンプル採取をして帰還するという世界初の偉業を成し遂げ、映画化作品が続々公開されている小惑星探査機「はやぶさ」。そこに搭載されたOS(オペレーティング・システム)、「ITRON」の開発者であり、世界的に業績を認められた科学者の坂村健・東京大学大学院情報学環教授に、作家・国際ジャーナリストの落合信彦氏が、日本が暗闇から抜け出す術を聞いた。

 * * *
坂村:「若者はどうして外国に行かないのか?」という問いに対して、私はまず「仕方がない」という側面を理解する必要があると思います。昔は、外国へ行って勉強をする必要性があった。日本には最先端の教科書すらなかったですから。しかし、今は自国の言葉だけで最先端科学にアプローチできる国になっている。必要に迫られていないわけです。

落合:しかし、このままではまずいわけでしょう?

坂村:もちろんそうです。今はまだそれなりの国内需要がありますが、少子高齢化で人口はどんどん減る。世界とコミュニケーションを取れる人間が増えないといけないのに、そういう訓練を受けてない人ばかりになってしまいます。

 問題は日本がとても居心地のいい国だということ。地球上でニートが一番楽に暮らせる国は日本。楽だからといって精神的に幸せとは限らないだろうけど、とにかく楽すぎる。やはり、目の前の安定だけにこだわってはいけない。

落合:確かに単に留学するだけでコミュニケーションを取らなければ意味がない。その意味でバブル時代の留学生たちは酷いのが多かった。日本の大学に入れない連中が、仕方がないからアメリカに行っちゃおうという考え方。それすらファッションとして終わってしまったわけですが。

 先生は東京大学で学生を教えている立場ですが、どのように学生たちの目を開かせようとしているのでしょう?

坂村:私のところは文理融合型の大学院で、ちょっとユニークな取り組みをしています。心がけているのは、色んな人を入れること。昔の東大の大学院は東大を卒業した人しかいなかったが、それは時代遅れ。例えば理想形の一つは、東大を出た人が3分の1くらいで、他を出た人が3分の1。あとの3分の1を外国からの学生にする。私の研究室は既に半分ぐらい外国人なんです。そうすると、雰囲気が随分違ってきます。

落合:東南アジアなどから来た学生は、危機感も競争心もあって必死でしょう。

坂村:戦う意欲がありますよ。日本で学んで、国へ帰って頑張ろうと。もちろん、それが日本人も刺激になるわけです。

 日本人に能力がないわけではありません。私は最近ヨーロッパに行って感心するのは、日本人の若い料理人で現地の一流の店で働いている人の数の多さです。評判のいい店では、必ずと言っていいほど厨房に日本人がいるんです。本場で料理をマスターする必要がある、という状況であれば貪欲に勉強しに行って、きちんと成果を残せる。

落合:しかし、逆に言えば大多数の日本人は外に出て行く必要性に迫られているにもかかわらず、気付いていないということ。私はそれが恐ろしい。

※SAPIO2012年4月25日号

関連キーワード

トピックス

オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト
10月16日午前、40代の女性歌手が何者かに襲われた。”黒づくめ”の格好をした犯人は現在も逃走を続けている
《ポスターに謎の“バツ印”》「『キャー』と悲鳴が…」「現場にドバッと血のあと」ライブハウス開店待ちの女性シンガーを “黒づくめの男”が襲撃 状況証拠が示唆する犯行の計画性
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(右の写真はサンプルです)
「熊に喰い尽くされ、骨がむき出しに」「大声をあげても襲ってくる」ベテラン猟師をも襲うクマの“驚くべき高知能”《昭和・平成“人食い熊”事件から学ぶクマ対策》
NEWSポストセブン
公金還流疑惑がさらに発覚(藤田文武・日本維新の会共同代表/時事通信フォト)
《新たな公金還流疑惑》「維新の会」大阪市議のデザイン会社に藤田文武・共同代表ら議員が総額984万円発注 藤田氏側は「適法だが今後は発注しない」と回答
週刊ポスト
初代優勝者がつくったカクテル『鳳鳴(ほうめい)』。SUNTORY WORLD WHISKY「碧Ao」(右)をベースに日本の春を象徴する桜を使用したリキュール「KANADE〈奏〉桜」などが使われている
《“バーテンダーNo.1”が決まる》『サントリー ザ・バーテンダーアワード2025』に込められた未来へ続く「洋酒文化伝承」にかける思い
NEWSポストセブン
“反日暴言ネット投稿”で注目を集める中国駐大阪総領事
「汚い首は斬ってやる」発言の中国総領事のSNS暴言癖 かつては民主化運動にも参加したリベラル派が40代でタカ派の戦狼外交官に転向 “柔軟な外交官”の評判も
週刊ポスト
黒島結菜(事務所HPより)
《いまだ続く朝ドラの影響》黒島結菜、3年ぶりドラマ復帰 苦境に立たされる今、求められる『ちむどんどん』のイメージ払拭と演技の課題 
NEWSポストセブン
超音波スカルプケアデバイスの「ソノリプロ」。強気の「90日間返金保証」の秘密とは──
超音波スカルプケアデバイス「ソノリプロ」開発者が明かす強気の「90日間全額返金保証」をつけられる理由とは《頭皮の気になる部分をケア》
NEWSポストセブン
公職上の不正行為および別の刑務所へ非合法の薬物を持ち込んだ罪で有罪評決を受けたイザベル・デール被告(23)(Facebookより)
「私だけを欲しがってるの知ってる」「ammaazzzeeeingggggg」英・囚人2名と“コッソリ関係”した美人刑務官(23)が有罪、監獄で繰り広げられた“愛憎劇”【全英がザワついた事件に決着】
NEWSポストセブン
三田寛子(時事通信フォト)
「あの嫁は何なんだ」「坊っちゃんが可哀想」三田寛子が過ごした苦労続きの新婚時代…新妻・能條愛未を“全力サポート”する理由
NEWSポストセブン
大相撲九州場所
九州場所「17年連続15日皆勤」の溜席の博多美人はなぜ通い続けられるのか 身支度は大変だが「江戸時代にタイムトリップしているような気持ちになれる」と語る
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 高市首相「12.26靖国電撃参拝」極秘プランほか
「週刊ポスト」本日発売! 高市首相「12.26靖国電撃参拝」極秘プランほか
NEWSポストセブン