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他国は「China」と呼ぶも日本だけ「中国」と呼ばせられる

 河村たかし・名古屋市長の「南京発言」がいまだくすぶっている。3月22日、中国外務省の洪磊(ホンレイ)報道官は「日本の軍国主義者による中国侵略の歴史を改竄し否定するいかなる行為も、世間に認められない」と非難。さらには、今月、東京で行なわれる日中国交正常化40周年記念式典の特使格下げをするという。ことほど左様に南京問題に反応する中国。だが、その裏には歴史の事実を超えたある戦略が見え隠れする。ジャーナリストの有本香氏が分析する。

 * * *
「いわゆる南京事件はなかったのではないか」

 2月20日、来日した中国共産党の南京市委員会幹部との会談で、河村市長が発言したとされる言葉だが、南京市はこれに抗議して名古屋市との交流を停止、開催予定だった「南京ジャパンウイーク」も中止となったことは周知の通り。

 だが河村市長の発言の真意は別のところにあった。中国が主張するような30万人もの無辜(むこ)の民を虐殺した事実が本当にあったのか、日本側の見解と齟齬(そご)があり疑問があるので話し合っていきましょう、というものだった。

 日中両国政府は2006年に日中歴史共同研究をスタートさせたが、議論は平行線を辿り、最終的に両論併記となった。犠牲者数30万人説を繰り返す中国側の研究者に対して、日本側の研究者は「20万人を上限として、4万人、2万人など様々な推計がなされている」と主張した。さらに別の研究では、殺害された人数は100人程度という説もある。そもそも当時の南京の人口は30万人もいなかった。にもかかわらず朝日新聞が河村発言を「問題」だと報じたことから騒動となり、中国が便乗したのだ。

 自国にとって都合のよい歴史を書くのは世界の常識だが、中でも中国の歴史捏造は大胆かつ執拗だ。背景に大中華思想の中に日本を取り込もうという意思が透けて見える。

 拡張主義に走る中国共産党は、明朝や清朝時代の版図を過剰適用して領土を分捕ってきた。チベットや東トルキスタン(ウイグル)がいい例だ。これは、いわゆる中華思想に基づく華夷秩序──“先進地域”である中華(漢民族)とその周縁に存在する夷狄(いてき=蛮族)が冊封関係にある──の再構築であり、“中華帝国”再興の野望と言っていい。

 そこに立ちはだかるのが日本だ。南京大虐殺など歴史問題を持ち出す背後には、歴史を改竄・誇張することで日本を黙らせ、この野望達成を円滑に進めようという魂胆がある。

 華夷秩序の再構築。中華帝国再興の号砲は、「中国」という呼称であった。戦前の日本人は公文書も含めて「支那」という呼称を用いていたが、大東亜戦争に敗れて無力だった日本に対し、戦勝国側となった蒋介石は「今後はわが国を中華民国と呼び、略称は中国とするよう」主張した。

 今でも他国ではChina(支那)と呼ばれているのに、日本に対しては「国(天下)の中心」を意味する「中国」という略称を定着させたのだ。そればかりか今日の日本では支那という呼称が差別語であるかのような誤解まで生じている。中国側の思惑通り、いや、それ以上の成果であろう。

※SAPIO2012年4月25日号

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