ベネッセコーポレーションが運営する、難関海外大学進学者向けの予備校「Route H」(ルートH)は、ハーバード、イェールをはじめブラウン、コロンビア、コーネル、ダートマス、プリンストン、ペンシルベニアといったアメリカの最難関8大学、通称「アイビーリーグ」への登竜門として着実な実績をあげている。同社の藤井雅徳氏はいう。
「ルートHは少数精鋭主義を貫いており、現在中1から高3までの6学年を定員15名で指導しています」
ルートHは2008年5月に創設され、現在まで3期で合計10人の卒業生を輩出している。このうち女子が5人、さらに地方出身は3人(大阪2人、福岡1人)という内訳だ。
「大学別ではハーバード大に5人、イェール大に3人が合格しています」
ただし、両大学にパスしたスーパー受験生が3人いるので、実際にアイビーリーグに進学したのは6人だ。藤井氏は、この数字の持つ意味を説明した。
「海外難関大への進学は実に狭い門です。ハーバード大に正規留学(進学)する日本人学生は現在7人しかおらず、合格するのは年に1人か2人だけです。そこにルートHから4人(うち1人が今年9月入学)を送り出しました」
しかし、ハーバード大の日本人学生がたったの7人とは! 藤井氏は苦笑した。
「まず合格率がわずか5%だという、厳しい事実を認識してください。合格者枠は2000人程度しかありません。そのうえ、留学生は全合格者の1割程度(200人)です。近年は中国やインドに加えアフリカ、中近東から優秀な学生が受験するので、ますます厳しい戦いになっています」
ちなみに、国内難関の東大は25%、毎年3000人が入学する。
「アイビーリーグ8校にマサチューセッツ工科大学、カリフォルニア大バークレー校といった有名大学を加えても、日本人学生は毎年で20人くらいしか入学していないはずです」
ルートHの月謝は2万5000円。特別講習などを含めて年間50万~75万円ほどだ。受講生は、灘校など“東大合格者数上位校”の生徒が中心だ。
「年に2人くらいしか合格しないという実態なので、積極的に募集をしているわけではありません。それでも生徒はフェイスブックなどで情報交換して、うちを見つけてきますね」
当然、受講希望者の偏差値は高い。ほとんどが東大を併願するのも特徴だ。だが、本気になって受講する生徒は、最初から日本の大学を選択肢に入れていない。
「世界に出て自分を試したいという気持ちがなければ、アイビーリーグの大学に合格するのは難しい。実際、ルートHの受講を希望しても、9割は海外進学を断念。東大に進学して、大学院から海外受験をしようというパターンに落ち着いてしまいます」
受講生の家庭環境にも興味がわく。ルートHの受講生の親の職業は、医師や国際的ビジネスマンがいる一方で、「一般会社員の親御さんもいる」(藤井氏)とのこと。親の仕事云々よりも、「子どもが海外の大学に行きたいといったら、背中を押してくれるのが共通の家庭環境」なのだ。
同じく、息子や娘を海外留学させるとなると、費用面で尻込みしてしまう。
だが、留学事情に詳しい森田正康氏は首を振った。森田氏は、海外難関大留学の支援やコンサルティングを行なう「ヒトメディア」の社長を務めている。これまでハーバード大にも学生を送り込んだ。
「才能と学識、語学力があれば、東大に進学するより海外難関大を選ぶほうが経済的にもリーズナブルです。ハーバードやイェール大は奨学金制度が充実しており、世帯収入が700万円以下の学生の学費はほぼゼロになります」
アメリカでの生活費は、円高もあって年間100万円ほどだという。対する日本では―昨年の全国大学生協連の調査によると、下宿生の生活費が月あたり約6万3130円。国公立大の学費が月4万5000円。アパート代を含めると年に200万円近くは必要だ。
「地方から東大に進学するより、アメリカの有名大に留学したほうが安くつく計算になります」(森田氏)
※週刊ポスト2012年6月8日号