『メルマガNEWSポストセブン』では、ビートたけし、櫻井よしこ、森永卓郎、勝谷誠彦、吉田豪、山田美保子など、様々な分野の論客が『今週のオピニオン』と題して、毎号書き下ろしの時事批評を寄稿する。6月22日に配信された20号では、櫻井よしこ氏が登場。先日お亡くなりになられた三笠宮寛人親王殿下との対談経験もある櫻井氏によると、殿下が語る皇室論は、非常に明快で分かりやすいものだったようだ。
(※編集部注/文中の寛仁親王の「寛」は、正しくは「寛」に点が付きます)
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寛仁さまにお会いした2005年当時、小泉純一郎内閣の下で有識者会議が女系天皇容認を既定方針として皇室典範改正を進めていた。寛仁さまはそのような動きに対して、明確に反対なさったが、皇族の一員として、本当に勇気あるご発言だった。寛仁さまは、皇統の問題を考えるには、日本の皇室の特質をまず理解していなければおかしな議論になるとして、次のように語られた。
「(皇室は)神代の神武天皇から百二十五代、連綿として万世一系で続いてきた日本最古のファミリーであり、また神道の祭官長とでも言うべき伝統、さらに和歌などの文化的なものなど、さまざまなものが天皇さまを通じて継承されてきたわけです。世界に類を見ない日本固有の伝統、それがまさに天皇の存在です」
女系天皇容認に傾いた人々の中には、ヨーロッパの王室には女王陛下がおられるではないか、であれば日本も女系天皇でいいではないかと主張する人々もいた。そうした意見に対して寛仁さまはこう仰った。
「ヨーロッパの王室というのは普通の家から興って王権を握った王家です。かたや天皇家は日本の成り立ちとともに生まれました。ですから、ヨーロッパの王が強い『私』を持っているのに対して天皇は『私』を持っていらっしゃらない。イギリスの皇室であればウィンザーという家名がある。しかし天皇家には家名はありませんね」
寛仁さまの説明は、水を飲み下すように納得がいく。『皇室と日本人』の中で加瀬英明氏がイギリス王家の紋章には「ゴッド・アンド・マイ・ライト」(神と私の権利)と刻まれていることを指摘している。英国の王は神と同列にあり、神と同じように権力を有するという意味であろうか。対して日本の皇室は常に国民、国家の安寧と幸福を願って神々に祈りを捧げて下さる。
鎌倉初期に順徳天皇が残された禁秘御抄(きんぴみしょう)に「凡そ禁中の作法は、先ず神事、後に他事とす。日暮敬神(あけくれけいしん)の叡慮懈怠(えいりょけたい)無し」と明記されている。
古代から皇室のお役割は国民・国家を守るべく祈って下さることだった。皇室の長い歴史において、歴代天皇はまず神事を行ない、その後にはじめて他の諸々のことを行なわれた。最重要のこととして朝に夕に神々を敬い、神々のご加護を受けるために徳を積まれる。そうして祭祀を最重要事と位置づけて実践してこられた。
だからこそ、皇室は歴史のほとんどの期間を権力から遠い存在として過ごされた。権力者ではなく権威者として、或いは大祭主としての天皇を中心に日本人は非常に穏やかな文明を育んできた。これも祈りによって国民を統合してきた皇室の存在があってこそである。
※メルマガNEWSポストセブン20号