国際情報

「アラブ世界は革命で時計の針巻き戻された」と落合信彦指摘

 官邸を取り巻く反原発デモを“あじさい革命”と呼ぶ向きもあるが、作家・落合信彦氏は単なる美談で終わらせては意味がないと指摘する。同氏が例示するのは「ジャスミン革命」のその後である。

 * * *
 連日流れるシリアのニュースを見て、日本人は何を考えているだろうか。

 自国民に対して殺戮を繰り広げる大統領のアサド。アラビア語で「アサド」とはライオンを意味するが、権力の座にしがみつくその姿は、むしろハイエナと言ったほうがいいだろう。

 アサドは悪しき独裁者そのものである。間違いない。ただ、このシリアでの騒乱を、チュニジアから始まった一連の民主化運動と同じ流れ、つまり「アラブの春」などという陳腐なキーワードで理解しようとしてはならない。

「アラブの春」という表現は、長い冬が終わり、手放しで喜べる春がやってきた、という印象を与えてしまうが、それは違う。一連の騒乱については「アラブの混乱」「アラブの嵐」といったほうがいい。

 シリアの反体制派を見ても、アサドに叛旗を翻すという点では目的が一致しているものの、民族や思想はバラバラで、アサド後の体制をどうすべきか、全くヴィジョンを共有できていない。

 悪しき独裁体制を打倒するというフレーズは絶対的な「正義」に聞こえる。だが、チュニジアやエジプト、リビアなど、昨年すでに「春」を迎えた国々の現状を見れば、アラブ世界での“革命”が、望ましい結果を招かなかったという真理が見えてくる。

 では、それらの国で何が起きたか。イスラム原理主義の台頭である。

 例えば、端緒となったチュニジア。独裁者のベン・アリによる抑圧に不満が鬱積していたところに、一昨年12月、役人や警察の腐敗に抗議して一人の若者が焼身自殺を図った。弱者への同情と強権的な支配への反発が、フェイスブックなどを通じて広がり、独裁者を国外逃亡へと追い込んだ。これがいわゆる「ジャスミン革命」だった。

 だが、その後に行なわれた議会選挙ではイスラム原理主義に近い政党(エナダ)が勝利。一部の原理主義グループは、イスラム法の厳格な実践を求めている。その要求は、大学で男女の教室を別にする、女子学生のスカーフ着用を要求する、といった前近代的なものだ。

 ベン・アリの時代には原理主義とは一線を画した世俗的な政策が進められていた。合理的な社会の構築という観点では、「革命」によって、逆に時計の針が巻き戻されてしまったのである。
 
 エジプトでも同様に、原理主義グループから大統領が輩出された。私は当時からアラブ世界にはこれからカオス(混沌)が訪れると指摘したが、まさにその通りの流れになっている。

※SAPIO2012年8月22・29日号

関連キーワード

トピックス

復興状況を視察されるため、石川県をご訪問(2025年5月18日、撮影/JMPA)
《初の被災地ご訪問》天皇皇后両陛下を見て育った愛子さまが受け継がれた「被災地に心を寄せ続ける」  上皇ご夫妻から続く“膝をつきながら励ます姿”
NEWSポストセブン
子役としても活躍する長男・崇徳くんとの2ショット(事務所提供)
《山田まりやが明かした別居の真相》「紙切れの契約に縛られず、もっと自由でいられるようになるべき」40代で決断した“円満別居”、始めた「シングルマザー支援事業」
NEWSポストセブン
武蔵野陵を参拝された佳子さま(2025年5月、東京・八王子市。撮影/JMPA)
《ブラジルご訪問を前に》佳子さまが武蔵野陵をグレードレスでご参拝 「旅立ち」や「節目」に寄り添ってきた一着をお召しに 
NEWSポストセブン
前田健太と早穂夫人(共同通信社)
《私は帰国することになりました》前田健太投手が米国残留を決断…別居中の元女子アナ妻がインスタで明かしていた「夫婦関係」
NEWSポストセブン
オンラインカジノの件で書類送検されたオコエ瑠偉(左/時事通信フォト)と増田大輝
《巨人オンラインカジノ問題》オコエ瑠偉は二軍転落で増田大輝は一軍帯同…巨人OB広岡達朗氏は憤り「厳しい処分にしてもらいたかった。チーム事情など関係ない」
週刊ポスト
1990年代にグラビアアイドルとしてデビューし、タレント・山田まりや(事務所提供)
《山田まりやが明かした夫との別居》「息子のために、パパとママがお互い前向きでいられるように…」模索し続ける「新しい家族の形」
NEWSポストセブン
新体操「フェアリージャパン」に何があったのか(時事通信フォト)
《代表選手によるボイコット騒動の真相》新体操「フェアリージャパン」強化本部長がパワハラ指導で厳重注意 男性トレーナーによるセクハラ疑惑も
週刊ポスト
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
【国立大に通う“リケジョ”も逮捕】「薬物入りクリームを塗られ…」小西木菜容疑者(21)が告訴した“驚愕の性パーティー” 〈レーサム創業者・田中剛容疑者、奥本美穂容疑者に続き3人目逮捕〉
NEWSポストセブン
国技館
「溜席の着物美人」が相撲ブームで変わりゆく観戦風景をどう見るか語った 「贔屓力士の応援ではなく、勝った力士への拍手を」「相撲観戦には着物姿が一番相応しい」
NEWSポストセブン
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
【20歳の女子大生を15時間300万円で…】男1人に美女が複数…「レーサム」元会長の“薬漬けパーティ”の実態 ラグジュアリーホテルに呼び出され「裸になれ」 〈田中剛、奥本美穂両容疑者に続き3人目逮捕〉
NEWSポストセブン
前田亜季と2歳年上の姉・前田愛
《日曜劇場『キャスター』出演》不惑を迎える“元チャイドル”前田亜季が姉・前田愛と「会う度にケンカ」の不仲だった過去
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 自民激震!太田房江・参院副幹事長の重大疑惑ほか
「週刊ポスト」本日発売! 自民激震!太田房江・参院副幹事長の重大疑惑ほか
NEWSポストセブン