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振るだけで水道水が旨くなるタンブラー 3カ月で10万個販売

 手のひらで掴める「携帯型」の浄水器『クリンスイ タンブラー』がヒットを飛ばしている。振るだけで水道水が旨くなる“魔法のグラス”は、年間販売目標10万個をわずか3カ月で達成した。作家で五感生活研究所の山下柚実氏が、開発の裏側を報告する。 

 * * *
 パシャ、パシャ、パシャン……心地よい水の音。ぶつかっては戻る水の流れ。小さなしぶきがあがり、気泡が生まれ、沈んでいく。見ているだけでなんだか爽やか。ふと、山の中の渓流をイメージし、癒やされている私。仕事場で、しばし逃避的な妄想にふけってしまう。

 いやいや、現実に戻ろう。私の手のひらの中にあるのは透明なタンブラーだ。ここに水道水を注ぎ入れて、左右にシェイクする。水が動き、フィルターの中を通りぬけ、浄水されていく。

 これまで「浄水器」と言えば、台所の蛇口に装着したり、シンクの下にセットしたり、大きなポット型だったりした。けれどもこの『クリンスイ タンブラー』(三菱レイヨン・クリンスイ)はまったく発想が違う。手のひらで掴める「携帯型」なのだ。

 カバンに入れて、お出かけ時のお供にもどうぞ。駅やオフィスの蛇口から水道水を注ぎ入れ、浄水して飲むそんな新しいスタイルが、消費者の心を掴んだ。

『クリンスイ タンブラー』は2012年3月の発売以来、3か月で年間目標の10万個を達成し、目標値を倍の20万個に引き上げるヒット商品になった。「東日本大震災の発生で水に対する日本人の意識が大きく変わりました。そこで、前からあたためていた携帯型浄水器の発売時期を前倒しして、今年の春、市場へ出したのです」と三菱レイヨン・クリンスイ株式会社第一営業部の花房敬之部長(45)は言う。

 この商品、タンブラーの中にある浄水カートリッジが、水道水の残留塩素を除去する仕組みだ。「携帯型のサイズでも効率的に浄水するために、活性炭の粒の形状や大きさ、水に触れやすいデザインなど細かく工夫しました」と商品開発グループの石川剛士チームリーダー(40)は胸を張った。「今回の商品は、あえて中空糸膜フィルターを使わずに、活性炭のみで浄水します」

 えっ……「クリンスイ」といえば中空糸膜。知っている人は知っている。「世界で初めて」中空糸膜を浄水器に採用し、雑菌から赤錆まで除去してみせてその名を轟かせたことを。

 30年ほど前、フィルターといえば活性炭が一般的だった頃のこと。三菱レイヨンはその繊維技術を活用し、高性能の膜フィルターを開発して、浄水器の新時代を切り拓いたのだった。同社の多くの商品に標準装備され、いわばアイデンティティとも言えるその技術を「使わない」新商品とは。

「たしかに社内でも議論はありましたが、水が膜を通過するには一定の圧力をかけなければならない。膜のフィルターは、小型の携帯浄水器には向かないのです。それに、日本の水道の品質はとても高いので、活性炭で塩素を除去すればおいしい水になる。ということで今回はあえて、新型の商品を新しいお客様に向けて提案しました」と石川氏。

 新しいお客さまとは?「20~30代の女性です」

 明快だった。とにかく携帯型浄水器のターゲットは「若い女性」なのだった。でも、水はあらゆる世代に必要な命の基礎。なぜ、若い女性ユーザーにそこまでこだわるのでしょう?

 ある数字が示された。「実は全国の家庭用浄水器の普及率は39.6%。20年間、3割台という数字は変わっていません。つまり、浄水器を使わない人はまったく使わない。生活習慣はなかなか変えにくい。だからこそ、若い世代に早い時点で浄水器に出合ってもらいたい」(花房氏)

 家庭を持つ前の若い女性たちに、まずは「クリンスイ」ブランドに触れてもらう。浄水器を使う生活習慣を身につけてもらう。そして、家庭用浄水器の使用へとつなげていってもらいたい。メーカーの明確なねらいが見える。

 でも……。移り気で、成熟した消費者である若い女性たちって、モノを売るには一番手強い相手かも。彼らは頭をひねった。女性が浄水器を買う時、決め手になるのは何なのか。 「メカニズムや機能性といったスペックを重視するのは男性です。それよりも女性の場合は、自分の目の前で確実に水が濾過されている、という実感を大切にする傾向があります」(田中佐知子広告宣伝・マーケティング部長)

 ヒントがあった。購入者のほとんどが女性というポット型浄水器だ。ポット型は、上から水を入れる。フィルターを通過して、下へと水が移動していく。浄水のプロセスが、まさしく「実感を伴って」伝わってくる。

※SAPIO2012年10月3・10日号

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