国内

ホルスタインを「低脂肪牛」と商標登録し人気食材にした畜産家

群馬県で畜産業を営む小堀正展さん

 東京駅で毎日売り切れるお弁当がある。メインの食材はこれまで「低価格の牛肉」としか認知されて来なかった国産牛だ。生産者は群馬県赤城山麓に住む畜産農家。彼が育てる牛が今注目を集めている。口蹄疫、原発事故と次々と荒波が襲う厳しい農業の中で、「新しい価値観の創造」に挑む、ひとりの畜産農家の姿をレポートする。(取材・文=ノンフィクションライター・神田憲行)

 * * *
 お弁当の名前は「小堀低脂肪牛使用 トマトすき焼き会席御前」という。料理の鉄人で知られる中村孝明氏の監修のもと、「低脂肪牛」を使ったトマト味のすき焼きがウリだ。その「低脂肪牛」を育てているのが、群馬県の畜産農家、小堀正展さん(32歳)である。食材のビジネスショーに小堀さんが出展していた「宮小の低脂肪牛」に弁当メーカーが興味を持ち、今回の企画が実現した。1500円という行楽弁当の価格帯ながら、企画のユニークさと「低脂肪牛」というネーミングがヒットした。

 今回の企画は消費者だけでなく、食肉業界にもいささか誇張めいていうと、驚きで迎えられている。なぜなら小堀さんが飼っている牛は、国内では大衆用としてしか扱われなかったホルスタイン種、国産牛だからだ。

 一般に「○○牛」と呼称される牛は「和牛」と比べて3分の1から4分の1の価格で取引される。理由は「サシ」と呼ばれる脂肪分が少なく、和牛に比べて味が劣る、とされているからだ。

 小堀さんは10年前に親の代から今の牧場を受け継いだときに、まずそこに疑問を持った。

「まるで脂だけが牛の味を決めているみたいで変じゃないですか。赤身だって美味しいし、脂肪分より赤身が好きな人もいるんですから」

 大切に育てても、ただ種類が違うというだけで市場から安い値段を付けられる。市場だからそういうもの、という今までの考え方に、小堀さんは「黒毛もホルスタインも同じ命じゃないか」と納得できなかった。

 そこで自分の肉を検査に出して、A5ランクの和牛に比べて「カロリー、脂肪分は低く、高タンパク質」というデータを得て、「宮小牧場の低脂肪牛」という商標登録をした。ホルスタイン農家が商標登録をすることは珍しいという。

 さらにツイッターで積極的にPR活動も始めた。AVメーカー「ソフト・オン・デマンド」の元設立者で今はアグリビジネス「国立ファーム」を経営する高橋がなり氏が「経営するレストランで肉も出したい」とつぶやいたのに反応、試食会を実現し、同社の野菜レストラン「農家の台所」に商品を納入することに成功した。

 生産農家は牛を出荷したらあとは流通業者にお任せ、ということを小堀さんはしない。自らどんどん出かけてアピールしていく。小堀さんは「一次産業がどんどん二次産業、三次産業にも関わっていかないと未来がないと思います」という。

 新しい農家の将来像を模索する日が続く。

関連キーワード

トピックス

今季から選手活動を休止することを発表したカーリング女子の本橋麻里(Xより)
《日本が変わってきてますね》ロコ・ソラーレ本橋麻里氏がSNSで参院選投票を促す理由 講演する機会が増えて…支持政党を「推し」と呼ぶ若者にも見解
NEWSポストセブン
白石隆浩死刑囚
《女性を家に連れ込むのが得意》座間9人殺害・白石死刑囚が明かしていた「金を奪って強引な性行為をしてから殺害」のスリル…あまりにも身勝手な主張【死刑執行】
NEWSポストセブン
失言後に記者会見を開いた自民党の鶴保庸介氏(時事通信フォト)
「運のいいことに…」「卒業証書チラ見せ」…失言や騒動で謝罪した政治家たちの実例に学ぶ“やっちゃいけない謝り方”
NEWSポストセブン
球種構成に明らかな変化が(時事通信フォト)
大谷翔平の前半戦の投球「直球が6割超」で見えた“最強の進化”、しかしメジャーでは“フォーシームが決め球”の選手はおらず、組み立てを試行錯誤している段階か
週刊ポスト
参議院選挙に向けてある動きが起こっている(時事通信フォト)
《“参政党ブーム”で割れる歌舞伎町》「俺は彼らに賭けますよ」(ホスト)vs.「トー横の希望と参政党は真逆の存在」(トー横キッズ)取材で見えた若者のリアルな政治意識とは
NEWSポストセブン
ベビーシッターに加えてチャイルドマインダーの資格も取得(横澤夏子公式インスタグラムより)
芸人・横澤夏子の「婚活」で学んだ“ママの人間関係構築術”「スーパー&パークを話のタネに」「LINE IDは減るもんじゃない」
NEWSポストセブン
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン
モンゴル滞在を終えて帰国された雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、戦後80年の“かつてないほどの公務の連続”で体調は極限に近い状態か 夏の3度の静養に愛子さまが同行、スケジュールは美智子さまへの配慮も 
女性セブン
場所前には苦悩も明かしていた新横綱・大の里
新横綱・大の里、場所前に明かしていた苦悩と覚悟 苦手の名古屋場所は「唯一無二の横綱」への起点場所となるか
週刊ポスト
医療的ケア児の娘を殺害した母親の公判が行われた(左はイメージ/Getty、右は福岡地裁)
24時間介護が必要な「医療的ケア児の娘」を殺害…無理心中を計った母親の“心の線”を切った「夫の何気ない言葉」【判決・執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン