ライフ

落合信彦氏「今リスクを取らないことのほうがよっぽど危険」

 就職活動シーズンが近づいてきた。若者たちが将来を描くために、ロール・モデルを探せと語るのは作家の落合信彦氏だ。氏は、野茂英雄やイチローの生き方に感銘を受けてきたという。二人の生き方からも、リスクを取り、傷つくことを恐れない人生は美しいという落合氏が、若者にエールを送る。

 * * *
 野茂やイチローは才能に恵まれているのだから比較されても困るという反論もあろう。しかし、野球について「gifted(生まれながらの天才)」である彼らにしても、才能を伸ばす努力を怠らなかったからこそ自信を持ってリスクを取ることができたのだ。待っているだけでは才能は伸びることはないし、チャンスもめぐってこない。

 最近では、「上司は部下の才能を引き出すような指導をすべき」というような管理職マニュアルが横行しているようだが、才能は誰かに引き出してもらうものではない。

 私は大学院の途中で友人の誘いでオイルのアップ・ストリーム(発掘)のビジネスに身を投じた。その会社で副社長だった時のことだ。MITの修士を修了した男が就職してきた。学業成績は優秀だったが、職場の人間とほとんど話をせず、仕事でもなかなか成果を出せないでいた。

 私はその男を呼び、「なぜ他のみんなと話をしないんだ?」と尋ねた。するとその社員は、「話をしても、誰も僕のことを理解してくれないんです」とつれなく言うだけであった。

 私はオーナーでもあった会長にその男と会わせた。会長はユダヤ系のアメリカ人で仕事に厳しい男だった。いきなりものすごい剣幕で怒鳴りつけた。「他人がお前のことを理解するかどうかなんて関係ないんだ! お前の人格なんて興味はない。ここはビジネスをやるところなんだから、みんな儲けられるかにしか興味はないんだ!」

 酷いハラスメントだと思うだろうか? しかし、会長はビジネスの世界では当たり前の考えを述べたまでだ。自分から何もせず、それでいて理解してもらいたいなどというのは甘え以外の何ものでもない。

 その社員は会長に一喝されて以降、人が変わったように仕事に打ち込んだ。周囲のスタッフとも協力するようになり、結果を出そうとした。小さいながらも南米で新しい油田を発掘するなどして、自信をつけていったのだ。

 才能は誰の中にもある。誰もが何らかの「gift」を持って生まれて来る。そしてそれは自分の努力によって伸ばすものだ。もちろん先人の助言は必要だが、自分で必死に考えた上で助言を求めなければ意味はない。

 努力せずに居心地のいい場所に留まる生き方は、楽に見えるかもしれないが退屈この上ない。退屈は人生最大の敵と私は思っている。今の自分が知っている小さな世界に留まろうとせず、大海に漕ぎ出してもらいたい。海は荒れているし、凶暴なサメにも遭遇するだろう。しかし、小さな泥沼の中で一生身を潜めて生きるよりは、はるかに充実した人生だ。

 目の前にあるリスクは5年、10年のロング・レンジで考えれば大したものではない。むしろ、今リスクを取らないことのほうがよっぽど危険だ。これからの若者たちを待つ未来は、政府も企業も個人を守ってくれない。

 今のうちに思い切り失敗をしておけばいい。人生はギャンブルだが、10割の打率を求める必要などない。若いうちに思い切り空振りしてみるのも勉強になるはずだ。絶対に出塁できない見逃し三振だけはやめようではないか。

 将来の自分のイメージをきちんと思い描き、取るべきリスクを取る。そうすれば、最高に面白い人生が君たちを待っているはずだ。

※SAPIO2012年12月号

関連記事

トピックス

大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
大ヒット中の映画『4月になれば彼女は』
『四月になれば彼女は』主演の佐藤健が見せた「座長」としての覚悟 スタッフを感動させた「極寒の海でのサプライズ」
NEWSポストセブン
国が認めた初めての“女ヤクザ”西村まこさん
犬の糞を焼きそばパンに…悪魔の子と呼ばれた少女時代 裏社会史上初の女暴力団員が350万円で売りつけた女性の末路【ヤクザ博士インタビュー】
NEWSポストセブン
華々しい復帰を飾った石原さとみ
【俳優活動再開】石原さとみ 大学生から“肌荒れした母親”まで、映画&連ドラ復帰作で見せた“激しい振り幅”
週刊ポスト
中国「抗日作品」多数出演の井上朋子さん
中国「抗日作品」多数出演の日本人女優・井上朋子さん告白 現地の芸能界は「強烈な縁故社会」女優が事務所社長に露骨な誘いも
NEWSポストセブン
死体損壊容疑で逮捕された平山容疑者(インスタグラムより)
【那須焼損2遺体】「アニキに頼まれただけ」容疑者はサッカー部キャプテンまで務めた「仲間思いで頼まれたらやる男」同級生の意外な共通認識
NEWSポストセブン
学歴詐称疑惑が再燃し、苦境に立つ小池百合子・東京都知事(写真左/時事通信フォト)
小池百合子・東京都知事、学歴詐称問題再燃も馬耳東風 国政復帰を念頭に“小池政治塾”2期生を募集し準備に余念なし
週刊ポスト
(左から)中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏による名物座談会
【江本孟紀×中畑清×達川光男 順位予想やり直し座談会】「サトテル、変わってないぞ!」「筒香は巨人に欲しかった」言いたい放題の120分
週刊ポスト
大谷翔平
大谷翔平、ハワイの25億円別荘購入に心配の声多数 “お金がらみ”で繰り返される「水原容疑者の悪しき影響」
NEWSポストセブン
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
女性セブン
ホワイトのロングドレスで初めて明治神宮を参拝された(4月、東京・渋谷区。写真/JMPA)
宮内庁インスタグラムがもたらす愛子さまと悠仁さまの“分断” 「いいね」の数が人気投票化、女性天皇を巡る議論に影響も
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン