アベノミクスの効果で連日、株高円安が続いているが、メディアは株価だけでなく政府の「規制改革」に目を配れと指摘するのは、ジャーナリストの長谷川幸洋氏だ。
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実体経済はともかく、少なくとも金融市場の雰囲気はガラリと変わった。
だが、市場の熱気が街の景況感に跳ね返ってくるまで、もう少し時間がかかる。そこで決め手になるのが規制改革だ。日本経済新聞はこのところ、連日のように規制改革への旗を振っている。たとえば1月28日付社説は次のように書いた。
「政府は2009年に農地法を改正し、所有者と合意すれば一般企業も農地を借りられるようにした。しかし、企業は依然として農地の所有を認められず、農地を所有できる農業生産法人への出資も50%未満に制限されている」
「企業や意欲のある生産者が規模を拡大できるように思い切った規制緩和がいる。どの農家が農地を貸そうとしているか、だれでも知ることができる情報公開も欠かせない。耕作放棄地に農地としての優遇税制はいらない」
1月24日付社説は「規制の厚い岩盤を砕いて競争力高めよ」だったし、29日付の「危機突破へ首相はTPPに踏み出せ」では「各種の規制改革を含め、3本目の矢の成長戦略でもロケットスタートを切らなければ『アベノミクス』は早晩、失速してしまうだろう。TPPが試金石になる」と指摘している。
規制の周辺には、必ず既得権益を享受している勢力がいる。日経が指摘した農業分野では農協が典型的である。電力会社は地域独占と自動的にコストを料金に上乗せする総括原価方式によって、たいした経営努力なしに巨額の利益を上げてきた。
そうした既得権益勢力と戦って、自由な新規参入を促すために「自立と競争」を基本にした市場環境を整えられるかどうか、が勝負になる。
私は安倍晋三首相の指名で今回、政府の規制改革会議委員に就任した。1月24日の初会合では「会議のネット中継」を求めた。
ネット中継もコラムでの紹介も広い意味で「メディア」の役割である。改革を進めるうえで、もっとも大事なのは議論をガラス張りにして、国民に問題点を考えてもらうという点だ。
私自身はもちろんだが、日経も改革が骨抜きになりそうなら、ぜひ徹底的に批判していただきたい。それは、メディアが失いかけた国民の信用を取り戻す絶好のチャンスでもある。
※週刊ポスト2013年2月15・22日号