出っ張った腹を「メタボ腹」と呼ぶことがすっかり定着した感があるが、この「メタボリック・シンドローム」の基準となる数字には多くの専門家から疑問が呈されてきた。
厚生労働省が下に掲げたメタボリック・シンドロームの診断基準を発表したのは2006年5月のこと。2008年4月にはメタボ健診(特定健康診査・特定保健指導)が始まり、公的医療保険に加入する40~74歳のすべての日本人が対象となった。
メタボと診断されると、保健指導などを受けなければならない。このメタボ健診には国からの補助金が年間約215億円(2011年度)も注ぎ込まれている。
メタボ健診の最大の特徴で必須条件として最重要視される「ウエスト基準(男性85cm以上、女性90cm以上)」にも大きな問題がある。
予防医学を専門とする岡田正彦氏(新潟大学名誉教授、水野記念病院理事/水野介護老人保健施設長)が言う。
「まず、なぜ体の小さい女性の基準値のほうが男性よりも大きくなるのでしょうか。メタボリック・シンドロームはWHO(世界保健機関)が言い出して各国が基準を発表しましたが、当時からそんな基準にしていたのは日本だけ。国際糖尿病連合(IDF)から2006年秋に『日本の基準は奇妙』と指摘されたくらいです」
ウエスト基準は日本肥満学会が発表したものだが、腹囲の測定方法も日本だけが“特異”だった。
海外では内臓脂肪量を最も反映する位置として「肋骨の下と骨盤の間」で測定するが、日本では男女とも「臍」の位置で計測する。女性は臍の位置だと骨盤の大きさが腹囲に反映されてしまう。脂肪を測るのに骨盤の大きさが反映された数字が正確だとは考えがたい。
さらに岡田氏は「腹囲を測ること自体に意味がない」とも指摘する。
「腹囲の大小は寿命にほとんど影響を与えないことが欧米などの調査で分かっています。腹囲と死亡率の関係を証明することができなかったのです。言い出しっぺのWHOのリポートを見ても、最近はメタボという言葉は出てきません。日本だけが今も大騒ぎを続けているのです」(岡田氏)
2009年にIDFなどが作成したメタボリック・シンドロームの国際統一基準では、ウエストは必須条件ではなくなった。日本はいつまでおかしな基準を採用し続けるのか。
※SAPIO2013年3月号