アベノミクス効果による景気拡大は、いよいよ実態を伴い始めた――。
自動車業界はじめ、主要企業の春闘で一時金(ボーナス)や定期昇給の満額回答が相次いでいる。サラリーマンの懐が温かくなれば、真っ先に動き出すのが金融、そして土地・不動産市場だ。既に国土交通省が発表した地価動向報告でも、各地で土地やマンション価格の上昇傾向がうかがえる。
しかし、土地や不動産を物色できる余裕のある人は、まだ一部に過ぎない。国勢調査によると、日本人の約4割が「持ち家」ではなく「賃貸」住まい。しかも、都市圏ともなれば、高い家賃を払いながらギリギリの生活を強いられている人は多いはず。
目下、そんな賃貸派の不安は「急激な景気回復で家賃も上がるのではないか?」ということ。さっそく、東京カンテイの中山登志朗氏(市場調査部・上席主任研究員)に聞いてみると、
「賃料もひとつの物価なので、経済活動が活性化して景気が拡大すると上がる方向にバイアスがかかるのは間違いありません」
との答え。同社調べの「分譲マンション賃料月別推移」を見ても、昨年の12月に三大都市圏の賃料が押し並べて上昇。東京・神奈川・埼玉・千葉の首都圏では1平方メートル当たり2400円で推移していた賃料が、12月に2500円を突破し、今年に入っても高止まりしたままだ。
その背景は、やはり景気回復への期待感の表れだという。
「それまで市場に出回らなかった築年数の若い投資用マンションなどが次々と賃貸物件に出されているからです。これから景気が回復していくだろうという期待感の中で、所有者が納得する賃料で部屋を貸せる雰囲気になってきたのです」(前出・中山氏)
では、こうした投資案件が既存の賃貸マンションの家賃まで一気に引き上げてしまうのかといえば、決してそうではない。
「賃貸物件の大家さんは当然ながら賃料を上げたいと思っている反面、いきなり家賃を上げれば出ていってしまう人が多いから、上げたくても上げられない。もちろん、都心部の事業集積地や交通利便性の良い場所は、景気拡大に伴って家賃を上げるところも増えるでしょうが、それでも半年に5%前後がいいところでしょう」(中山氏)
ましてや、賃料が上がるのは都市圏からその周辺、そして地方圏や郊外へと波及していく流れのため、よほど好立地の賃貸マンションにでも住んでいない限り、家賃の極端なアップは考えにくいという。
ひとまず、家計簿の大幅な見直しを迫られなくて済みそうな賃貸事情。だが、景気変動により自分の生活水準が振り回されないよう、常に大局的な相場観は持っておきたいところだ。