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「俺のイタリアン」 1日160人が押し寄せワイン77本が空く

 40席がなんと1日4回転もする「行列のできる立ち飲みイタリアン」。驚異の店へ星付きシェフが次々と集まる。隣の客とぶつかるほどの狭い店がなぜ繁盛しているのか。五感・身体と社会の関わりをテーマに、五感生活研究所代表として取材や多くの講演を精力的に行う作家の山下柚実氏が、人気店「俺のイタリアン」(バリュークリエイト)の秘密に迫った。

 *  * *
 陽は落ちきらず、仕事も終わらない夕方の、中途半端な時間帯。新橋の街角に長い行列ができている。その数40人ほど。

 午後4時。開店と同時に、行列が呑み込まれていく。

 料理の匂いと人いきれで店内はムンムン。シャンパンのボトルが並び、皿が行き交う。「スゲエ、コスパ!」と歓声があがる。一皿980円(税込み1029円)でボリューム感たっぷりの「フォアグラのポワレ」。あなたは目を見張るだろう。それが「立ち飲み」店で楽しめると聞き、耳を疑うだろう。

「価格破壊」をレストランの中で実現してしまった「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」。ミシュラン星付きの名店にいたシェフたちが、高級食材に腕をふるう。なのに料理は高くても1000円前後。ワインは小売価格に999円をプラスするだけ。本格的なイタリアンやフレンチとしてはあまりの低価格と、話題が話題を呼んだ。都内10店舗で連日行列ができている。

 ここ「俺のイタリアン」新橋本店は、その出発点となった場所だ。2011年9月、開店した直後は、「閑古鳥が鳴いていた」。それが2年も経たないうちに超満員。「俺イタ」「俺フレ」の秘密と戦略を探ってみると……。

「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」を展開するバリュークリエイトは、2009年に生まれた新しい会社だ。取締役・総料理長の山浦敏宏氏(45)は、新橋本店でスタートから関わってきた創設メンバーの一人。

「開店当初は、入ってきたお客さんが『なんだ、イタリアンと思ったら立ち飲みか』と出て行ってしまうこともありました」

 山浦氏自身、三つ星を含め星付き名店5店で修行してきたベテランシェフ。ある時、ブックオフコーポレーション創業者で知られる坂本孝氏が、新しいスタイルの飲食店を立ち上げると耳にした。

「高級食材をふんだんに使って、しかも低価格で提供する立ち飲み店。食材は原価率を気にせずにどんどん使う。そのコンセプトが凄く面白いと思ったんです。いったいどこで儲けるんだろうと不思議でしたけど……」

 立ち飲み店という点は、シェフのこだわりやプライドが邪魔しませんでしたか?

「高級レストランや料亭は、景気にとても左右されやすい。一方で、高架下の立ち飲み屋はしぶとく潰れないでしょ? そこに大切なヒントが潜んでいるのではと、前々から興味があったんです」

 そこで「俺のイタリアン」の立ち上げに参画。メニューを開発し調理場に立った。不安を抱えつつも立ち飲みスタイルを貫いていると「30人、40人とじりじり来店客が増え、2か月たつと電話が鳴りやまない状態になった」。

 そして今や、1日に160人、月に5000人が押し寄せるまでに。新橋本店では、ワインは一日平均77本が空く(2013年1月)。定員40名の狭い店内は一日なんと「4回転」するという。平均客単価は3000円。でも、回転数さえ高めれば利益は確実に生まれる。

「ですから、料理は安いだけでなく『素早く出す』ことがポイントです。狭い調理場で、仕込みを工夫し、調理器具にダッチオーブンを活用したり。ライブ感が大切なので、ピザは生地を一枚ずつ伸ばし必ず焼きたてを出しています」

 等身大よりも大きそうなシェフの写真が、堂々と店の外に掲げられている。これも「俺イタ」「俺フレ」の特徴だ。

「誰が作っているのかがはっきりするのは良いこと。ちょっと恥ずかしいけれどね」と山浦氏。 徹底的な「わかりやすさ」が武器なのだ。  

※SAPIO2013年4月号

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