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「東大・京大生で英語できない学生などいない」と瀧本哲史氏

京大「英語化」は是か非か 京大客員准教授の瀧本哲史氏が語る

 京都大学の教養課程の「英語化」が話題を集めている。2013年度から5年間で外国人教員を約100人増やし、一般教養の授業の半分以上を英語で実施するというのだ。また、大学の入学試験を受ける基準として英語運用能力テスト「TOEFL(トーフル)」を活用する自民党・教育再生実行本部の提言が議論を呼んでいる。英語ができなければ大学に行けない時代が到来か――。

 この時代をどう生き抜けばよいのか。「交渉論」「意思決定論」「起業論」など、人気講義を担当する京都大学客員准教授で、エンジェル投資家でもある瀧本哲史さんに聞いた。

 * * *
――実際に京大で教えていらっしゃる先生は、京大の教養課程の英語化を、どう捉えていますか。

瀧本:まず、この件については大枠が発表されただけで、詳細など、決まっていない部分が多いです。ですから、私が知っている範囲に基づいた見解、ということになります。その前提で言いますと、京大ではすでに、英語での講義は行われているんですね。これは東大も同様です。つまり、英語で授業をするというのは、京大や東大にとって、新しくも何ともない。ただ、全体の授業における比率はそれほど高くないので、今回の京大の英語化は、この「比率」を上げていこうと動きです。そういう意味で、非連続の変化ではありません。

 そもそも大学は、グローバリゼーションが一番進んでいる分野なんです。もちろん、その他大勢の大学を含めると、すべてがグローバル化しているわけではない。ですが、東大・京大レベルは違います。分野にもよりますが、論文の発表は基本的に英語ですし、研究は、グローバルマーケットを対象にして行われる。大学院生も、海外の学会などでは、英語での発言が求められるなど、国際競争に晒されているんです。

――英語化は京大にとって、自然な流れだということですね。

瀧本:京大にとっては、創立の精神にも合っていると思います。京大はもともと、日清戦争の賠償金で創られた大学です。明治維新のファウンダーたちは非常に賢くて、長期投資として重要なのは大学だろうと考えた。それで、日清戦争で得た賠償金の一部を、東大のバージョンアップや、京大の創設に当てたわけですが、その時、京大を、東大とは違うモデルで設計したのです。東大は、政府に役立つ人材養成機関として創った。一方、京大は、研究機関として独立させようと。ですから、京大が、東大とは違う方針を打ち出していくのは、その成り立ちにも符合するのです。

 また、京都という土地の特性にも見合っている。京都には、京都ローカル初のグローバル企業がたくさんありますよね。

――京都発のグローバル企業には、任天堂や、堀場製作所などがあります。

瀧本:村田製作所もそうですよね。京都には、一般にはあまり知られてなくても、世界的シェアを持つ企業がある。京大はそうした企業とのやり取りが昔からあって、そのなかで、グローバル化への問題意識が醸成されてきたという背景もあると考えられます。

――具体的に、どういった授業を英語で学ぶことになるのでしょうか。

瀧本:教養課程には、英語で授業しやすい科目と、しにくい科目があるでしょう。自然科学や数学などは、英語と連続性が高い。一方、日本文学を英語で教えるのは、効率が悪いだろうと。そうした詰めの議論がこれから必要になるでしょう。

 ただ、こうした個別議論の前に、大学には大きく3つの教育があるのですが、その3つが区別して考えられていないという印象を受けます。3つというのは、1.研究者を養成する教育、2.リベラル・アーツ(教養)教育、3.産業に役立つ人材を養成する教育で、英語化が、この3つのどれを目的にしたものなのかが意識されていない。ただ、3つすべてにとって英語が「前提」であることは確かです。英語ができた上で、英語で何を学ぶかが問われるわけです。

――18歳までに、ある程度の英語を身に着けることが必要になりますね。

瀧本:すべての18歳ではなく、少なくとも、東大・京大に入るレベルの学生は、ということです。最初は、京大でも英語を重点的にフォローするなどのカリキュラムが必要になるでしょう。が、次第に、入試が高い英語力を求める試験になり、滞りなく授業ができるようになるでしょう。そのためには、高校の教育も変わらざるを得ない。大学の入試試験というのは、実は、社会にものすごく影響を与えるのです。

――学力はあるけど、英語だけできない、という学生はいないのでしょうか?

瀧本:東大・京大レベルを目指す学生であれば、それはないでしょう。語学って、そんなに難しいものではないんです。飛びぬけた才能がなくても、それなりに努力すれば身に着く。ダメな教師に当たった学生は気の毒ですけど、普通に勉強すればできるようになります。

――京大に限らず、他大学でも英語力の必要性は増していくのでしょうか。

瀧本:日常英会話レベルの英語は国民全員ができたほうがいいよね、ということで、小学校での英語が必修化されました。ですが、学校で習う英語と、京大の研究者が必要な英語は、全くレベルが違う。ビジネスで必要な英語力も、仕事の種類によって違う。日本人全員に、高度な英語が必要なわけではありません。英語を学ぶ前に、自分がどういう生き方をしたいのかをまず考えるべきです。それによって必要な英語レベルはおのずと決まってくる。ただ、研究でもビジネスでもハイエンドを求める限り、英語は避けられないでしょう。

【たきもと・てつふみ】
東京大学法学部卒。同大学院法学政治学研究科助手、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て独立。現在は、エンジェル投資家、京都大学客員准教授。NPO法人全日本ディベート連盟代表理事、星海社新書軍事顧問などもつとめる。著書に『僕は君たちに武器を配りたい』『武器としての決断思考』『武器としての交渉思考』

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