芸能

「あまちゃん」前のめり気味のクドカン脚本を女性作家が憂慮

 作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏も毎朝チェックしている『あまちゃん』。滑り出しは好調だが先はまだまだ長い。山下氏が抱く一抹の不安とは。

 * * *
 宮藤官九郎初の脚本で大きな話題を集めているNHK朝ドラ『あまちゃん』。初回の視聴率は20.1%と好発進、週を重ねるたびに右肩あがりに。最高視聴率も22%を超えと、快進撃を見せています。

 岩手県を舞台に、能年玲奈演じる女子高生・天野アキが海女を目指す。やがて地元のアイドルへと成長していく物語。と、舞台も素材もクドカン的でユニークですが、『あまちゃん』には従来のNHK朝ドラには見られなかったある要素、これまでには無かった味付けがたしかに存在しています。

 それは、サブカルチャーを取り込んだドラマの仕掛け。もっと言えば、「インターネット」というツールを物語の軸にきっちり組み込んだ、初めての朝ドラ。そう言えるのではないでしょうか?

 海女になって海に潜り、ウニを獲るアキ。その姿を職員が撮影し、地元観光協会のサイトに動画でアップ。とたんに、カメラ抱えたオタクの大群が、アキに会おうと辺鄙な田舎の海岸へどっと押し寄せてくる。見ず知らずのオタクたちにとり囲まれてオタオタするアキ。地元の人たちも、そこまでネットに影響力があるとは想像だにしていなかった……。

 いったんネットに情報が上がると、想像を超えた現象が現実の暮らしの中に生まれてくる。まさしく今の時代を描いてリアルです。

「ネットが、現実を変えていく」。「辺鄙な田舎に人を呼び、町が活性化していく」。

 長い歴史を持つNHKの朝ドラとはいえ、こうした直近の今を写したシーンが描き出されたのは、おそらく初めて。さすがサブカルの旗手、クドカンの脚本。ネットに馴染みの薄い世代にとっては、かなり奇妙な現象に映っていると思いますが。

 ただし。私自身、毎朝欠かさず『あまちゃん』を観てパワーをもらっているファンだけに、あえて辛口の意見を言わせてもらうとすれば……。

『あまちゃん』の中で描かれるドラマの柱は、あくまで人と人との関係。古典的なテーマです。もちろん、クドカンもそのことを強く自覚しているはず。なのにサブカルチャー的仕掛けが、それよりも目立ち過ぎたら本末転倒。

 親と子、友達同士、地域の人と人。本当は愛したいのに、すれ違ってしまう。憎みたくないのに憎んでしまう。別れたくないのに別れてしまう。そんな感情のねじれやわだかまりを、ひとつひとつ丁寧に解いていくことで、登場人物たちが生きる力を修復していく。そのことが、視聴者の心の成長にもつながっていく。朝ドラの黄金律です。

 たとえば、先週のこのシーン。

 長い間、春子を好きになれなかった、と告白する安部ちゃん。でも、春子の娘のアキを媒介にして、遠く心が離れていた二人がもう一度、心を通わす。

 実に感慨深いシーンです。なのに、たった1、2分間程度のセリフのやりとりで済ませてしまったのは、まことにもって残念無念。こういうシーンにこそ、時間と手間を投入するのが朝ドラの真骨頂。

 2人はなぜ、すれ違ってしまったのか。そしてなぜ今、傷ついた部分を修復できたのか。過去までさかのぼり、映像も使いつつ、じっくりと描き出してほしかった。関係が壊れたとばかり思っていたのに、思わぬきっかけで、心と心がもう一度響きあうことがある。それが、おおいなる勇気を与えてくれるから。

 そのあたり、半年間毎日、朝ドラを見続ける理由です。多くの人が朝ドラに期待している「神秘的な力」なのです。視聴者は、登場人物に「深く」共感したい。そうやって共感しながら、自分自身の心の傷も同時に癒していきたいのです。

 クドカンの脚本は、やや前のめりの速度で次々に面白エピソードを追いかけて展開している気配があります。1980年代のアイドル話、聖子ちゃんカット、なめネコといったお得意のサブカル道具を使って笑わせるシーンならば、それでいい。

 でも、「ここ」という重要なシーンに、ネット的な速度感はそぐわない。急ぎすぎは、思わぬ事故のもと。「前のめり」気味の速度に、ここではしっかりとブレーキをかけてほしい。

 アキの家族はどう壊れているのか。父と子、夫婦の関係もまだよく見えていない。アキが東北へ転校してきた本当の理由は何なのか。もっと秘密があるのではないか。そのあたりもしっかり見せてもらって、東京の場面と対比しながら東北にアクセスしたい。心から応援しているドラマだからこそ書くのです。『あまちゃん』はここからが勝負です。

関連記事

トピックス

世界中でセレブら感度の高い人たちに流行中のアスレジャーファッション(左・日本のアスレジャーブランド「RUELLE」のInstagramより、右・Backgrid/アフロ)
《広瀬すずもピッタリスパッツを普段着で…》「カタチが見える服」と賛否両論の“アスレジャー”が日本でも流行の兆し、専門家は「新しいラグジュアリーという捉え方も」と解説
NEWSポストセブン
浅香さんの自宅から姿を消した内縁の夫・世志凡太氏
《長女が追悼コメント》「父と過ごした日々を誇りに…」老衰で死去の世志凡太さん(享年91)、同居するスリランカ人が自宅で発見
取締役の辞任を発表したフジ・メディア・ホールディングスとフジテレビ(共同通信社)
《辞任したフジ女性役員に「不適切経費問題」を直撃》社員からは疑問の声が噴出、フジは「ガバナンスの強化を図ってまいります」と回答
NEWSポストセブン
子宮体がんだったことを明かしたタレントの山瀬まみ
《“もう言葉を話すことはない”と医師が宣告》山瀬まみ「子宮体がん」「脳梗塞」からの復帰を支えた俳優・中上雅巳との夫婦同伴姿
NEWSポストセブン
愛子さま(写真/共同通信社)
《12月1日がお誕生日》愛子さま、愛に包まれた24年 お宮参り、運動会、木登り、演奏会、運動会…これまでの歩み 
女性セブン
海外セレブの間では「アスレジャー
というファッションジャンルが流行(画像は日本のアスレジャーブランド、RUELLEのInstagramより)
《ぴったりレギンスで街歩き》外国人旅行者の“アスレジャー”ファッションに注意喚起〈多くの国では日常着として定着しているが、日本はそうではない〉
NEWSポストセブン
虐待があった田川市・松原保育園
《保育士10人が幼児を虐待》「麗奈は家で毎日泣いてた。追い詰められて…」逮捕された女性保育士(25)の夫が訴えた“園の職場環境”「ベテランがみんな辞めて頼れる人がおらんくなった」【福岡県田川市】
NEWSポストセブン
【複雑極まりない事情】元・貴景勝の湊川親方が常盤山部屋を継承へ 「複数の裏方が別の部屋へ移る」のはなぜ? 力士・スタッフに複数のルーツが混在…出羽海一門による裏方囲い込み説も
【複雑極まりない事情】元・貴景勝の湊川親方が常盤山部屋を継承へ 「複数の裏方が別の部屋へ移る」のはなぜ? 力士・スタッフに複数のルーツが混在…出羽海一門による裏方囲い込み説も
NEWSポストセブン
アスレジャースタイルで渋谷を歩く女性に街頭インタビュー(左はGettyImages、右はインタビューに応じた現役女子大生のユウコさん提供)
「同級生に笑われたこともある」現役女子大生(19)が「全身レギンス姿」で大学に通う理由…「海外ではだらしないとされる体型でも隠すことはない」日本に「アスレジャー」は定着するのか【海外で議論も】
NEWSポストセブン
中山美穂さんが亡くなってから1周忌が経とうとしている
《逝去から1年…いまだに叶わない墓参り》中山美穂さんが苦手にしていた意外な仕事「収録後に泣いて落ち込んでいました…」元事務所社長が明かした素顔
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)(Instagramより)
《俺のカラダにサインして!》お騒がせ金髪美女インフルエンサー(26)のバスが若い男性グループから襲撃被害、本人不在でも“警備員追加”の大混乱に
NEWSポストセブン
(左から)中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏の人気座談会(撮影/山崎力夫)
【江本孟紀・中畑清・達川光男座談会1】阪神・日本シリーズ敗退の原因を分析 「2戦目の先発起用が勝敗を分けた」 中畑氏は絶不調だった大山悠輔に厳しい一言
週刊ポスト