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引退した胡錦濤氏 在任中の既得権益層との政治闘争振り返る

 中国の胡錦濤・前国家主席が4月下旬、これまでの10年を振り返って、引退に際しての最後の内部講話を行なった。その中で「改革を実行しようとしたが、既得権益層に阻まれた」などと語り、上海閥を率いて権力に固執した江沢民・元主席らを暗に批判したことが分かった。

 その一方で、温家宝前首相ファミリーが27億ドル(約2700億円)もの不正蓄財を働いたとの疑惑などについて、「既得権益集団による政治的な攻撃だ」と温氏を擁護した。中国ニュース専門サイト「多維ニュースネット」が報じた。

 胡錦濤氏の内部講話は「これから、どうすべきか」と題したもので、10年間の胡錦濤政権の政治運営を振り返って、今後10年間政権を担当する習近平主席や李克強首相ら現指導部へのはなむけにするもの。参加者は習、李両氏ら現役幹部のほか、引退幹部も含まれていたという。

 胡氏はこれまでの政治活動について、多くの失敗があり、慚愧(ざんき)に堪えないとしたうえで、「私も温家宝前首相も経済や政治、社会の分野でさまざまな改革を積極的に進めようとしたが、既得権益層がさまざまな妨害活動をして実行できなかった」と指摘。

 たとえ、それらの妨害を乗り越えて、さまざまな政策を打ち出しても、党・政府の中央の機構や地方組織が抵抗して、政策をないがしろにしたことで、「政策を打ち出しても実行されなければ、政令が中南海(北京の政治中心地)から外に出ず、政策を打ち出さなかったと同じことだ」と不満を滲ませた。

 また、胡氏は多額の賄賂や妻の殺人事件に絡んだとみられる薄熙来・重慶市党委書記を鋭く糾弾し、失脚に追い込んだ温氏に対して、保守派や既得権益層から激しい攻撃が加えられたことを明らかにした。

 昨年11月の党大会を前にした8月、河北省の避暑地、北戴河で開催された会議で、「温家宝氏は直接的な政治的攻撃を受けた」としたうえで、胡氏は「私は総書記として、温首相を守るという明確な態度を取らなかった。これについては、いまも恥じ入り、悔いている」と告白した。さらに、胡氏は「私は当時、温首相にしばらく身を潜めて、自身の身を守ることに専念した方がよいと忠告した」との秘話を明らかにした。

 さらに、その後も米紙ニューヨーク・タイムズが温首相ファミリーによる27億ドルもの不正蓄財疑惑を報じたことについて、「温首相を標的にした、さらなる政治攻撃である」と怒気を交えて語った。

 最後に胡氏は「既得権益集団は党の発展計画を無視し、家族の利益を重視し、地方の権益を守るために、我々の改革の計画に抵抗し、骨抜きにして、ことごとく潰したことは、本当に無念で悔やんでも悔やみきれない」と述べたうえで、「習近平指導部は我々の教訓を汲み取り政治に生かしてほしい」と強調した。

 この胡氏による内部講話について、『習近平の正体』(小学館刊)などの著書もあるジャーナリストの相馬勝氏は次のように語る。

「当時は党大会を前に、胡氏ら中国共産主義青年団(共青団)閥と、上海閥・太子党(高級幹部子弟)の連合グループによる熾烈な権力闘争が展開されており、胡氏が強く批判する『既得権益層』とは江沢民・元主席や習近平・主席らであることは想像に難くない。党大会では政治局常務委員の7人のうち6人が上海閥と太子党閥で占め、習氏らの完全勝利だったわけだが、逆に習氏らが政策を遂行する段になって、習氏自身が既得権益層の抵抗の大きさに驚き、手を焼き、いまになって胡氏の無念さに思いを至らしめているのではないか」

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