国内

上野千鶴子氏 売春は強姦商品化でキャバはセクハラ商品化

 橋下徹大阪市長の従軍慰安婦や風俗業をめぐる発言をきっかけに、日本における風俗業の存在が大きく問われているが、「臓器売買と同じように売買春は認められない」と断罪するのは、社会学者の上野千鶴子氏である。

 * * *
 対価を払って同意を得ているから買春してもいいという人がよくいるが、カネを払えば女性の身体を自由にしていいのか。資本主義だって何でも商品にしていいわけではない。

 例えば債務奴隷は認められていないし、臓器の商品化も認められていない。侵襲性(身体を侵す)の高い、しかも妊娠の可能性のある女性の身体の使用は、商品にしてはいけないものだ。

 誤解が多いようだが、管理売春は女性が男性に性を売る取引ではない。売春業者の男性が客の男性に女性を商品として売る取引だ。だから、取引の主体ではない女性は罪に問われない。

 商品である彼女たちは、決して好きでセックス・ワーク(性労働)をしているわけではない。『さいごの色街 飛田』や荻上チキ著『彼女たちの売春(ワリキリ)』によれば、風俗業に従事する女性の大半はシングルマザーで、家計支持者だという。

 そんな状況の中、相談窓口の存在など様々な制度を活用するリテラシーもない彼女たちは、借金でがんじがらめになっている。だから、カネと引き換えにセックスという仕事をせざるを得ないのである。

 フリーランスで援交する若い女の子も同様だ。男によってセックスが商品になるという知識がもたらされると、今の世の中、他に食べていく道がないから、セックス・ワークを選ぶ。家庭でも虐待され、夫や恋人からも暴力を受けて家から出ている。中卒、高校中退も多く、一時の「自己決定型」売春は過去のものとなり、現在は貧困が性産業への参入の理由になっている。

 いうまでもなく、売春は犯罪である。風営法も本番は許していない。だが、公然と違法行為は行なわれている。男も「自分はよくないことをしている」という自覚があるからこそ、法外なカネを払っているのだろう。

 性欲にはけ口が必要であるならば、ムラムラは自分で解消すればいい。相手のあるセックスをしたければ、相手の同意が必要なのは当たり前だろう。セックスは人間関係なのだから、関係をつくる努力をすればよい。

 一方、橋下氏のいう「法で認められた」他の風俗はどうか。たとえば、売春業が「強姦の商品化」だとすれば、キャバクラは「セクハラの商品化」である。これも普通の会社であれば、絶対に許されることではないからこそ、法外なカネが払われる。カネでももらわなければ、女性にとってはやってられない仕事だろう。

 カネまで払って男性がやりたい理由は、私には永遠の謎だ。男たちが変わるのに何世紀かかるかわからないが、この男の不気味さは男に解いてもらいたい。ある意味、カネは強制力である。風俗嬢も、援交少女も、カネに縛られているという点では、構造的な強制力のもとに働かされている。いわば貧困が供給源になった強制労働者なのである。

 性の自由には賛成だが、それは双方の自由な合意による性のことである。何度でもいうが、札束で面を叩いて他人の身体を自由にしていいのか。やはり、風俗は完全になくすべきだという結論以外にない。

【上野千鶴子/うえの・ちづこ】
1948年生まれ。東京大学名誉教授、立命館大学大学院先端総合学術研究科特別招聘教授、NPO法人WAN理事長。著書に『近代家族の成立と終焉』『ナショナリズムとジェンダー』など。

※週刊ポスト2013年6月7日号

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