朝日新聞の6月4日付夕刊に、あれっと思わせる記事が掲載された。
「幸せのカギ 脱成長にあり」という見出しの仏の経済哲学者セルジュ・ラトゥーシュ氏のインタビュー記事だ。
「経済成長は、結果的に大多数の人を決して豊かにしない。人の生存を脅かす貧困や飢餓は、経済成長こそが生み出す」──という同氏の言葉は傾聴に値するが、だとすればこれまで朝日がアベノミクスに賭けていた成長への期待と夢は一体どこに消えたのだろうか。大メディアの中で最も積極的に安倍政権の経済成長路線を後押ししてきたのは朝日だ。
今年1月、経済社説担当の駒野剛・専門記者(元論説委員)が社説余滴のコラムで、「安倍さん、やってみなはれ」とこう書いた。
〈手をこまねいていたら、少子高齢化が進み、経済の衰退を座視することになりかねない。今こそ政治の出番だ。アベノミクスは大いに試す価値があると思う。「人生はとどのつまり賭けや。やってみなはれ」。サントリー創業者の鳥井信治郎が、危険な新事業に乗り出す時の言葉を思い出す〉(1月17日付)
それを機に同紙は社をあげてアベノミクス礼賛記事を書きまくった。2月には株価が上がると朝刊1面で、「急伸、アベ相場 岩戸景気に次ぐ12週連続の株価上昇」(2月2日付)と打ち、「金融 止まらぬ株高に興奮」と煽った。
デパートで貴金属や美術品の売り上げが増えると、「百貨店にもアベノミクス効果? 4カ月ぶり高額品好調」(2月20日付)、スーパーで花見用の商品が売れ、景気の先行きを占う印刷用紙の出荷が前年より増えたといっては、「アベノミクスで景気上向き? スーパー売上高、印刷用紙出荷量がプラス」(4月23日)の見出しを掲げた。
「景気は気から」という。3月のスーパーの売り上げ増は、実際のところ前年より気温が高くて春物衣料が売れたからだし、花見の人出が増えたのも開花ピーク時の休日が1日多かっただけの話。それでも“何が売れても安倍首相のおかげ”にした方が消費マインドは良くなると考えたのだろう。
※週刊ポスト2013年6月21日号