ビジネス

東京・池袋のサンシャイン60 当初はツインタワー構想だった

 国内の大規模再開発の先駆けとなった大型複合施設「サンシャインシティ」。その目玉が当時東洋一の高さを誇った超高層ビル・サンシャイン60だった。

 1966年に財界主導で新都市開発センター(現・サンシャインシティ)が設立され、1973年に着工したが、石油危機の影響で一旦頓挫。約1年の中断を経て工事再開後、人々の気力は漲っていたとサンシャインシティ常務取締役の宮下昌久氏は振り返る。

「当時はオイルショック後の不景気でしたが、関係者は『とにかく日本一のビルを作ろう』と意気込んでいました。当初はツインタワーの構想でしたが、いつの間にか現在の超高層デザインに変わったんです」

 最大1300人が作業に励んだというビル建設現場には、男たちの熱気が充満していた。現場の工事担当者であり、鹿島建設OBの河合節男氏(71歳)は現場責任者のこんな呼びかけが忘れられない。

「俺たちで超高層ビルの集大成を作ろうじゃないか!」──。たぎる思いに発奮した河合氏が心血を注いだのは、超高層ビル建設において何よりも大切な「精度」だった。

「工事では『世界一の精度』を目指しました。超高層ビルに携わる技術屋としての誇りがあったし、何といっても、超高層ビルは私より長生きしますしね」(河合氏)

 ミリ単位のズレを回避するため、当時、希少だった超音波測定器やレーザー光線を用いて溶接の繋ぎ目や鉄骨を幾重にもチェックし、「日の出前に矯正を!」を合言葉に早朝から現場に繰り出した。

「太陽が昇ると気温が上がり、温まった鉄骨がわずかに曲がる。これを防ぐため、作業員は詰所に泊まり込み、早朝4時半から鉄骨をワイヤーで矯正する必要があったんです」(河合氏)

 工期を半分ほど終えたころには“事件”も起きた。ある夕方、現場に突如、多数の消防車が現われたのだ。「ビルの15階辺りが燃えている」との通報があったというのである。事情を聞いた河合氏はやむにやまれぬ心で非常用階段を駆け上がった。

「さすがに12階で息が切れましたが、火災の気配はなくホッとしました。結局、地域の住民が建設中のビルの窓ガラスに夕日が赤々と照らされているのを見て、火事と早合点したとのことでした(苦笑)」(河合氏)

 そんな珍事件に見舞われながらも、男たちの熱意が込められた超高層ビルはすくすくと伸びていった。

取材・文■池田道大

※週刊ポスト2013年7月12日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

クマによる被害が相次いでいる(左・イメージマート)
《男女4人死傷の“秋田殺人グマ”》被害者には「顔に大きく爪で抉られた痕跡」、「クラクションを鳴らしたら軽トラに突進」目撃者男性を襲った恐怖の一幕
NEWSポストセブン
本拠地で大活躍を見せた大谷翔平と、妻の真美子さん
《スイートルームを指差して…》大谷翔平がホームラン後に見せた“真美子さんポーズ”「妻が見に来てるんだ」周囲に明かす“等身大でいられる関係”
NEWSポストセブン
“飛ばし屋あいちゃん”の異名も
《女子ゴルフ後藤あい》16歳ドラコン女王“驚異のぶっ飛び”の秘密は「軟らかいシャフトで飛ばす」 アマチュアゴルファーでも実践できるのか? 専門家が解説
週刊ポスト
部下と“ラブホ密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(左・時事通信フォト)
《「策士」との評価も》“ラブホ通いすぎ”小川晶・前橋市長がXのコメント欄を開放 続投するプラス材料に?本当の狙いとは
NEWSポストセブン
女性初の首相として新任会見に臨んだ高市氏(2025年10月写真撮影:小川裕夫)
《維新の消滅確率は90%?》高市早苗内閣発足、保守の受け皿として支持集めた政党は生き残れるのか? 存在意義が問われる維新の会や参政党
NEWSポストセブン
滋賀県を訪問された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年10月25日、撮影/JMPA)
《すぐに売り切れ》佳子さま、6万9300円のミントグリーンのワンピースに信楽焼イヤリングを合わせてさわやかなコーデ スカーフを背中で結ばれ、ガーリーに
NEWSポストセブン
注目される次のキャリア(写真/共同通信社)
田久保真紀・伊東市長、次なるキャリアはまさかの「国政進出」か…メガソーラー反対の“広告塔”になる可能性
週刊ポスト
送検のため奈良西署を出る山上徹也容疑者(写真/時事通信フォト)
《安倍晋三元首相銃撃事件・初公判》「犯人の知的レベルの高さ」を鈴木エイト氏が証言、ポイントは「親族への尋問」…山上徹也被告の弁護側は「統一教会のせいで一家崩壊」主張の見通し
NEWSポストセブン
新恋人のA氏と腕を組み歩く姿
《そういう男性が集まりやすいのか…》安達祐実と新恋人・NHK敏腕Pの手つなぎアツアツデートに見えた「Tシャツがつなぐ元夫との奇妙な縁」
週刊ポスト
女優・八千草薫さんの自宅が取り壊されていることがわかった
《女優・八千草薫の取り壊された3億円豪邸の今》「亡き夫との庭を遺してほしい」医者から余命宣告に死の直前まで奔走した土地の現状
NEWSポストセブン
左から六代目山口組・司忍組長、六代目山口組・高山清司相談役/時事通信フォト、共同通信社)
「六代目山口組で敵う人はいない」司忍組長以上とも言われる高山清司相談役の“権力” 私生活は「100坪豪邸で動画配信サービス視聴」も
NEWSポストセブン
35万人以上のフォロワーを誇る人気インフルエンサーだった(本人インスタグラムより)
《クリスマスにマリファナキットを配布》フォロワー35万ビキニ美女インフルエンサー(23)は麻薬密売の「首謀者」だった、逃亡の末に友人宅で逮捕
NEWSポストセブン