親のカネがないと生きていけないパラサイト・シングルが増えているが、その解決策として親だけが家から離れるという手もある。依存先を失った子供のことが心配になるかもしれないが、それこそが親のエゴ。親と子、両方の共依存をどう改善するかがカギだ。
「子ども家庭教育フォーラム」代表で、教育・心理カウンセラーの富田富士也氏が指摘する。
「ちょうど良い親子の距離感を作り直すために“私はあの子じゃない。あの子は私じゃない”という認識を持つことを勧めます。
子供との会話で事あるごとに“お前の気持ちはわからない。でも、お前も父さんの気持ちがわからないだろう”というようなフレーズを挟み込む。そうして柔らかく突き放す言葉で、適度な距離を作るのです」
本誌『週刊ポスト』が取材のなかで出会った、自立に向かっているある家族のエピソードを紹介しよう。
今年40歳になるAさん(67)の息子は、料理人や俳優、お笑い芸人など夢ばかりを追っていた。専門学校や養成所を渡り歩くが、何一つ物にならず。その間の学費や生活費はすべてAさんが出していた。アルバイトはしているものの、お笑い芸人を夢見て定職に就く気はさらさらなかった。
しかし、昨年、転機が訪れた。Aさんが脳梗塞で倒れたのだ。軽い左半身麻痺という後遺症は残ったものの命に別状はなく意識もハッキリしている。既に年金生活だったので家計への打撃は大きくなかった。変わったのは息子の意識だった。
「彼は父親が『いつか死ぬ』ではなく、『もうすぐ死ぬかもしれない』と実感したそうです。そして少しでもいいから親孝行したいと思うようになってくれて、その第一歩として会社勤めを始めました。
最初の給料で私たち夫婦を食事に招待してくれたのはうれしかった。派遣社員なので不安定な立場ですが、私たち家族の関係はかつてないほど安定し始めています」(Aさん)
変わらなければいけないのは子供だけでも親だけでもない。家族全体の問題だという認識が必要だ。
※週刊ポスト2013年8月2日号