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政治の暴走は自動車の暴走より危険 選挙にも免許制度が必要

 国政選挙のたびに議論になるのが一票の格差問題だ。一票には平等の価値がなければならないという「法律の整合性」が問題となっている。だが、「法律の整合性」の実現が目的になっていいのだろうか。評論家の呉智英氏が論ずる。

 * * *
 参院選終了を受け、弁護士らのグループが「一票の格差は憲法違反だ」として選挙無効の全国一斉提訴に踏み切った。私はこれに根本的な疑問がある。

 この運動で何か「善い政治」が実現するのだろうか。実現するのは、ただ「法律の整合性」だけじゃないか、と思うのだ。法律の整合性は、別に悪いことではないけれど、積極的によいことでもない。単に法律が整合的に運用されているというだけのことであって、善い政治が実現したわけではないのだ。

 未成年者飲酒禁止法という法律がある。この法律を「整合的に」全国一斉に適用したら、新入生歓迎コンパシーズンの大学街は、1970年前後の大学街以上の騒然たる雰囲気に包まれるだろう。この法律では、飲酒の未成年者そのものは処罰されないが、酒類の販売者・提供者、また親権者・監督責任者らが処罰される。それでも、新入生が全国で十万人は補導されるし、同席した教授連は逮捕される可能性がある。

 だが、そんな事態は起きていない。それは法律が「整合的に運用」されていないからであり、その結果「善い学生街」が出現しているのである。

 私は、一票の格差に目くじらを立てるよりも「主権の暴走」にこそ目を向けるべきだと思う。

 昨今「ポピュリズム」という言葉をよく目にする。判断力のない大衆を煽動して「悪い政治」を実現することである。しかし、この言葉は『広辞苑』は第三版(1983年発行)まで、フランスの文学潮流とか、19世紀アメリカの政党思想とか、説明しているだけだ。この言葉が、主権の暴走の煽動の意味に使われるようになったのは、ここ20年なのである。

 つまり、今世紀に入るころから、主権の暴走を憂慮し警戒する声が出てきたのだ。

 しかし、憲法は、主権の暴走に対し、何の抑制装置も準備していない。いや、三権分立があるぞという声も聞こえてきそうだが、三権は主権の下位にある。三権が相互に抑制し合っても、主権が暴走し始めたら、それを抑止することはできない。

 主権の行使は選挙の投票である。私はこれを免許制にすべきだと考える。自動車運転に免許制があるのは、その危険を防ぐためである。しかし、考えてもみよう、自動車の暴走と政治の暴走のどちらが危険か。政治の暴走に決まっているだろう。それなのに、自動車のみに免許制があり、選挙権には免許制がない。この不合理こそ、なんとかしなければならない。

 私は、大正末年までの不合理・不公平な制限選挙をもくろむものではない。収入差や男女差で選挙権を制限することに、何の意味もない。公平公正な選挙権免許制度こそ、主権の暴走を辛くも抑止することができる。私が考える選挙権免許試験は、ごく常識的な中学校卒業時までに身につけておくべき客観的な知識を問うだけである。

 普通選挙制度と治安維持法は、大正14年(1925年)春、わずか13日差の実質的に抱き合わせで施行された。昭和戦前期の軍国主義は普通選挙以後のことである。と、この程度のことに、ええっ、そうだったのか、と驚いているような人も主権者なのである。主権の暴走を抑止するのは、バラマキ普通選挙の見直し、そして、選挙権免許制度だけである。

 憲法についての議論とは、法律の整合性の議論ではなく、国家そのもの、政治そのもの、権力そのものについての、根源的議論でなければならない。

※週刊ポスト2013年8月9日号

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