ライフ

近藤誠氏がん放置療法に医師反論「医療否定本に惑わされるな」

 近藤誠氏著『医者に殺されない47の心得』が100万部突破のベストセラーとなっているが、医師の中には、近藤氏が提唱するがん放置療法を否定する人も少なくない。日本尊厳死協会副理事長でもある長尾クリニック院長・長尾和宏医師と、翻訳業の傍らボランティアでがん患者の相談に乗っている藤野邦夫氏の2人は、共著となる新刊『がんの花道』(小学館)で、近藤氏による「早期発見、早期治療は意味がない」という主張に真っ向から反論している。

 * * *
長尾:最近、慶應義塾大学医学部放射線科の近藤誠先生が、がんの早期発見、早期治療は意味がないなどと複数の書籍で書いておられますが、私はそれは絶対に違う! と思っています。早期発見、早期治療はいくらでもあります。実際、私は早期発見して、早期治療した結果、助かっている患者さんをたくさん診ています。

 逆に、一部のそうした本で書いてあるような、手術はしない、放置すればいい、という主張を信じて、手術さえすれば助かったのに亡くなっていかれた患者さんもたくさん見てきました。同様に、抗がん剤は効かないと抗がん剤治療を否定する主張を信じて、最初は抗がん剤治療を拒否していた患者さんが、後からやっぱり抗がん剤治療を始めているケースも見かけます。このケースでは、「どうせやるなら、もっと早くからやっていればよかった」と患者さんは後悔されています。そのようにして失われた時間は本当にもったいないですね。

 こうした医療否定本というべき書籍が、医療界に一石を投じようとする意図は理解できます。しかし、残念ながら書いてあることの全部が正しいとはとても思えません。正解も大間違いも混在しているのが実態だと思います。こうした医療否定本を鵜呑みにして、助かる命をみすみすなくされないか、私はそれを心配しています。

藤野:早期発見の意味がなければ、ますますがんで苦しんで亡くなる人が増えますよ。近藤さんたちの説を信じて、定期検診や検査を受けなくなる蛮勇の持ち主は少ないでしょうが、心配な点は、もともと定期検診や検査を受けたくない人たちが、やっぱり受けなくていいんだと納得してしまうことです。そのような影響が出るとすれば、発言者の社会的責任には大きいですね。

 現在、薬物療法のおかげで、がん患者が元気で暮らせる生存率は大きく伸びています。薬は病気を治すためだけにあるのではなく、追いつめられた患者の病状を改善し、生きる希望を与える効力も持つのだと私は思います。

 さらに問題は、正統派のがん医療にたずさわる医師たちが、医療否定本にあまり反対しないことです。かれらはバカバカしいとあざ笑っているようですが、それは患者や一般市民に対する怠慢です。医師の特権意識がマイナスに作用しています。

長尾:本来、医者は患者さんを助けるのが仕事ですから、どうやったら助けられるかを日々模索して診療をしているわけです。そりゃあ、早期発見、早期治療でも亡くなる患者さんはいます。しかし、早期発見、早期治療で治る患者さんもいれば、残念ながら亡くなるにしても、現代医療、特に緩和ケアの恩恵を受けて、残された時間をご家族と快適に過ごされる患者さんもたくさんおられるのです。

 ですから、私は、患者さんやご家族には、ぜひとも勉強をして賢くなっていただきたいと思います。そうすれば、医療否定本に惑わされずにすむと思います。医療の現状を知って、進歩を知って、また欠点も知って、上手に「医療のいいとこ取り」を目指して使っていただくのがいいのではないかと私は思うのです。

藤野:がんを治療せずに放置しろという近藤誠さんの説は、健康で心に余裕のある人が読めば面白いのでしょうが、病気で追い詰められた治療中の患者や家族が読むと、混乱させられるか不安になるだけではないか私は危惧しています。

※長尾和宏・藤野邦夫/共著『がんの花道』より

関連キーワード

トピックス

驚異の粘り腰を見せている石破茂・首相(時事通信フォト)
石破茂・首相、支持率回復を奇貨に土壇場で驚異の粘り腰 「森山裕幹事長を代理に降格、後任に小泉進次郎氏抜擢」の秘策で反石破派を押さえ込みに
週刊ポスト
別居が報じられた長渕剛と志穂美悦子
《長渕剛が妻・志穂美悦子と別居報道》清水美砂、国生さゆり、冨永愛…親密報道された女性3人の“共通点”「長渕と離れた後、それぞれの分野で成功を収めている」
NEWSポストセブン
結婚を発表した趣里と母親の伊藤蘭
《母が趣里のお腹に優しい眼差しを向けて》元キャンディーズ・伊藤蘭の“変わらぬ母の愛” 母のコンサートでは「不仲とか書かれてますけど、ウソです!(笑)」と宣言
NEWSポストセブン
2020年、阪神の新人入団発表会
阪神の快進撃支える「2020年の神ドラフト」のメンバーたち コロナ禍で情報が少ないなかでの指名戦略が奏功 矢野燿大監督のもとで獲得した選手が主力に固まる
NEWSポストセブン
ブログ上の内容がたびたび炎上する黒沢が真意を語った
「月に50万円は簡単」発言で大炎上の黒沢年雄(81)、批判意見に大反論「時代のせいにしてる人は、何をやってもダメ!」「若いうちはパワーがあるんだから」当時の「ヤバすぎる働き方」
NEWSポストセブン
寄り添って歩く小室さん夫妻(2025年5月)
《お出かけスリーショット》小室眞子さんが赤ちゃんを抱えて“ママの顔”「五感を刺激するモンテッソーリ式ベビーグッズ」に育児の覚悟、夫婦で「成年式」を辞退
NEWSポストセブン
負担の多い二刀流を支える真美子さん
《水着の真美子さんと自宅プールで》大谷翔平を支える「家族の徹底サポート」、妻が愛娘のベビーカーを押して観戦…インタビューで語っていた「幸せを感じる瞬間」
NEWSポストセブン
“トリプルボギー不倫”が報じられた栗永遼キャディーの妻・浅井咲希(時事通信フォト)
《トリプルボギー不倫》女子プロ2人が被害妻から“敵前逃亡”、唯一出場した川崎春花が「逃げられなかったワケ」
週刊ポスト
イギリス出身のインフルエンサーであるボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
“1000人以上の男性と寝た”金髪美女インフルエンサー(26)が若い女性たちの憧れの的に…「私も同じことがしたい」チャレンジ企画の模倣に女性起業家が警鐘
NEWSポストセブン
24時間テレビで共演する浜辺美波と永瀬廉(公式サイトより)
《お泊り報道で話題》24時間テレビで共演永瀬廉との“距離感”に注目集まる…浜辺美波が放送前日に投稿していた“配慮の一文”
NEWSポストセブン
芸歴43年で“サスペンスドラマの帝王”の異名を持つ船越英一郎
《ベビーカーを押す妻の姿を半歩後ろから見つめて…》第一子誕生の船越英一郎(65)、心をほぐした再婚相手(42)の“自由人なスタンス”「他人に対して要求することがない」
NEWSポストセブン
会話をしながら歩く小室さん夫妻(2025年5月)
《眞子さんが見せた“ママの顔”》お出かけスリーショットで夫・小室圭さんが着用したTシャツに込められた「我が子への想い」
NEWSポストセブン