立川志らく氏(左)と貴乃花光司氏が語り合う
1月11日に初日を迎える初場所では、先場所で初優勝したウクライナ出身の安青錦が新大関として土俵に上がる。最高位への昇進が早期に実現すれば横綱・大の里に匹敵するスピード出世となる。ファンの期待が現実となる可能性はどれほどか。第65代横綱・貴乃花光司氏と、好角家で知られる落語家・立川志らく師匠が語り合った。【全3回の第1回】
師匠に恵まれる「運」
貴乃花:志らく師匠とお会いするのは初めてですが、2018年に私が相撲協会を退職する際はテレビを通じてたくさん擁護をしていただきまして……。
志らく:あの時はひとりの相撲ファンとして見て、貴乃花親方が普通のことをおっしゃっていると思ってのことでした。協会の人は皆さん現役時代から好きな方ばっかりでしたが、あれ以来、国技館に相撲を観に行けなくなっちゃった(笑)。
貴乃花:私のせいで、すみません(苦笑)。
志らく:とはいえ、そろそろ観に行きたいなと思います。昨年は安青錦をめぐるドラマがあり過ぎるほどあった。本当にすごいですね。当人は強くなろうと一生懸命やってるだけだけど、こちらは国を背負っているかのように見てしまい、つい応援しちゃいます。
貴乃花:安青錦は真面目で勤勉なんだと思います。昭和の日本的な美徳を持っている。今の日本の若い世代は逆の方向に行きがちですが。
志らく:たとえば私の師匠の談志は、落語には「飢えと貧乏、寒さ」が絶対必要だと教えた。「お前たちの時代は国じゅうが幸せだから、普通にやったら落語なんかできない。だから飢えさしてやる」って、アルバイト禁止のうえ1日3食はもらえず、それで上納金を払えと。
弟子はどんどん飢える。当時は嫌だったけど、今はそれが強みになった。相撲の世界も同じで、田舎から夜行列車で来て入門した時代に比べると、良くも悪くも優しさを感じます。ただやっぱりハングリーじゃなきゃ勝てない。安青錦には日本人が失ったハングリーさを感じます。
貴乃花:大鵬さん(第48代横綱)のお父さんもウクライナ人でしたから、安青錦も通じるものがあるのかもしれません。ただ、これからです。大関に上がった時の勢いを実力に変えなければいけない。今は安美錦(安治川親方)というガチンコの師匠に恵まれ、安美錦が守って一生懸命育てている段階です。
志らく:落語の場合は師匠を自分で選んで弟子入りしますが、相撲部屋は自分で選ぶとはいえ、いろんなしがらみや縁にも左右されますね。
貴乃花:安青錦が入門前に師匠についてどれだけ知っていたかわかりませんが、一つの運ですね。師匠の安美錦は現役時代に技巧派で、安青錦も日本の力士がやらないような内無双を繰り出したりする。たまたま自分に合った師匠だった。
志らく:大関として勝つには何が必要でしょうか。
