8月24日、窃盗の疑いで無職の35歳男性が神奈川県警山手署に逮捕された。盗んだのは「自転車のサドル」計200個である。
この男は取り調べに対し、「女性が乗るサドルが大好きだった。革のサドルの質感やにおいも好きで、舐めたり嗅いだりしていた」と容疑を認めたという。
実は2010年にも、女児の自転車のサドル78個を盗み、栃木県高根沢町在住の男(当時37歳)が逮捕されるなど、同様の事件は数件起きている。海外では、自転車のサドル愛好者は「シート・スニッフィング」と呼ばれ、「その道の人々」には知られたジャンルだというが、サドル以外にも奇妙キテレツな変態性を持っている人は少なくない。
都内の一般企業に勤める40代会社員は、女性の吸ったタバコの吸い殻に執着してしまうという。いわば「吸い殻フェチ」である。
「細いメンソールのタバコで、濃いめのピンクの口紅の跡がついていたら、もう我慢できない。バーのカウンターなどでトイレに行くフリをして拝借しています。まァ、ちょっと咥えたりする程度ですし、さすがに見ず知らずの女性のモノには手を出さないように自制していますが」
また、唇に触れるモノ、という点で吸い殻と共通するのがストローだ。「ストローフェチ」も存在する。
数多くの官能小説を世に送り出した作家・睦月影郎氏は、ストローのフェチであることを公言している。女性が吸ったストローのにおいを嗅いだり、吸ってみたりすることに興奮を覚えるというのだ。
「一口に“フェチ”といっても、私とサドルを盗んだ男の間には、大きな違いがあると思う。私のフェティシズムは、いわば“女性が手に入らないための代用品”です。私がストローを持ち帰ったりしないのは、“鮮度”が落ちるから。その場で舐めたほうが、女性の唾液がより新鮮に感じられる。ストロー本体に執着はありません。
しかしサドル男の場合は相手の女性が誰でもいいわけです。つまり“恋が存在していない”のです。だから彼はフェチというよりコレクターに近い。女性にお尻を押しつけられたいという気持ちより、物質としてのサドルのほうに興味があったのでしょう」
睦月氏のいうとおり、「あの女性が好きだから」「美人を見つけたから」という理由でリコーダーや吸い殻を舐めたいと思うことと、顔も知らぬ女性の使ったものをひたすらに集めることの間には、似たような行為でも大きな隔たりがある。サドル事件に衝撃を受けた人が多いのも、その違和感によるところが大きいのだろう。
フェティシズムに詳しい福井大学の坂田登教授(哲学・倫理学)が解説する。
「『フェティッシュ』とはもともと“人工物”という意味の言葉。とくに心理学・精神医学の分野で『フェティシズム』という言葉を使い始めたのはフロイトです。フロイトによれば性的に未熟な5~6歳くらいまでには幼児性欲というものがあり、この時期は大人にとっては性欲が向かないような様々なモノに性欲が向くと説いています。大人になってからモノに性的に執着する場合、その素地は幼児期に形成されていることが多いのです」
※週刊ポスト2013年9月13日号