ビジネス

軽量・コンパクト化と低価格化で支持集めるアウトドアウエア

 空前のアウトドアブームである。専門店では色とりどりのアウトドアウエアが飛ぶように売れている。そのなかで、“山ガール”からシニア世代、そして本格的なアウトドア愛好家にまで幅広く支持されているウエアがある。大阪のアウトドアメーカー・モンベルが開発した『トレントフライヤー ジャケット』だ。

 今年6月に世界文化遺産に登録された富士山。今夏も色とりどりのアウトドアウエアに身を包んだ登山者たちで賑わった。そのなかで目に付いたのが、『トレントフライヤー ジャケット』を着た登山者の多さだ。

『トレントフライヤー ジャケット』は、2001年から発売されている全天候型のウエアである。3~4年毎にモデルチェンジが行なわれ、2010年に登場した現行モデルは4代目にあたる。

「世界最高水準の防水透湿性を持った素材『ゴアテックス』を使っていますから、雨の日でも蒸れにくく快適にすごせます。それでいて重さは205グラムと超軽量。専用バッグに収納すれば幅7センチ、高さ14センチほどになるコンパクトさも自慢です」

 そう語るのは、『トレントフライヤー ジャケット』の開発をてがけたチーフデザイナー、三枝弘士だ。

 三枝に、看板商品ともいえる4代目『トレントフライヤー ジャケット』開発の指令が下ったのは、2009年のことだった。

 それまで販売していた3代目は、湿度や温度の調節ができるように両脇の下にベンチレーションファスナーを設けたり、生地に高い収縮性を持たせて動きやすくしたりと、高機能を追求したモデルだった。しかし重量が嵩み、販売価格も3万円を超えてしまっていた。そのため、販売は苦戦を強いられていたのである。

 そこで、会社は次期モデルに2つの目標を掲げた。「軽量・コンパクト化」そして「低価格化」である。

 三枝は、来る日も来る日も素材開発に没頭した。そして出会ったのが、『ゴアテックス パックライト』という理想の素材である。裏地が生地ではなく、特殊な粒子を固着させてあるため超軽量。価格も手ごろで、防水透湿性も申し分ない。

 さらに軽量化のため外観にも手を加えることになり、フードやポケットを廃止するアイデアも出た。だが、三枝は即座に却下した。

「フードがなければ頭部を雨風から防ぐことができません。ポケットも最低限必要。アウトドアメーカーとして、必要な機能まで削ぎ落とすことはできません」

 結局フードは残し、ポケットは胸元にひとつだけ設置。もちろん両脇下のベンチレーションは廃止した。

 試作モデルが出来上がってきた。重さは……200グラムをわずかにオーバーしてしまっている! 三枝はさぞかしがっくりきているだろう、周囲は皆そう思った。ところが三枝は、けろっとしてこういった。

「『200グラム』にこだわるのはもうやめましょう。ユーザーは数グラムの差なんてほとんど感じない。無駄なこだわりは不要です」

 こうして生まれた4代目『トレントフライヤー ジャケット』は、発売されるや、忽ち人気商品になった。

■取材・構成/中沢雄二(文中敬称略)

※週刊ポスト2013年10月11日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

割れた窓ガラス
「『ドン!』といきなり大きく速い揺れ」「3.11より怖かった」青森震度6強でドンキは休業・ツリー散乱・バリバリに割れたガラス…取材班が見た「現地のリアル」【青森県東方沖地震】
NEWSポストセブン
前橋市議会で退職が認められ、報道陣の取材に応じる小川晶市長(時事通信フォト)
《前橋・ラブホ通い詰め問題》「これは小川晶前市長の遺言」市幹部男性X氏が停職6か月で依願退職へ、市長選へ向け自民に危機感「いまも想像以上に小川さん支持が強い」
NEWSポストセブン
3年前に離婚していた穴井夕子とプロゴルァーの横田真一選手(Instagram/時事通信フォト)
《ゴルフ・横田真一プロと2年前に離婚》穴井夕子が明かしていた「夫婦ゲンカ中の夫への不満」と“家庭内別居”
NEWSポストセブン
二刀流かDHか、先発かリリーフか?
【大谷翔平のWBCでの“起用法”どれが正解か?】安全策なら「日本ラウンド出場せず、決勝ラウンドのみDHで出場」、WBCが「オープン戦での調整登板の代わり」になる可能性も
週刊ポスト
高市首相の発言で中国がエスカレート(時事通信フォト)
【中国軍機がレーダー照射も】高市発言で中国がエスカレート アメリカのスタンスは? 「曖昧戦略は終焉」「日米台で連携強化」の指摘も
NEWSポストセブン
テレビ復帰は困難との見方も強い国分太一(時事通信フォト)
元TOKIO・国分太一、地上波復帰は困難でもキャンプ趣味を活かしてYouTubeで復帰するシナリオも 「参戦すればキャンプYouTuberの人気の構図が一変する可能性」
週刊ポスト
世代交代へ(元横綱・大乃国)
《熾烈な相撲協会理事選》元横綱・大乃国の芝田山親方が勇退で八角理事長“一強体制”へ 2年先を見据えた次期理事長をめぐる争いも激化へ
週刊ポスト
2011年に放送が開始された『ヒルナンデス!!』(HPより/時事通信フォト)
《日テレ広報が回答》ナンチャン続投『ヒルナンデス!』打ち切り報道を完全否定「終了の予定ない」、終了説を一蹴した日テレの“ウラ事情”
NEWSポストセブン
青森県東方沖地震を受けての中国の反応は…(時事通信フォト)
《完全な失敗に終わるに違いない》最大震度6強・青森県東方沖地震、発生後の「在日中国大使館」公式Xでのポスト内容が波紋拡げる、注目される台湾総統の“対照的な対応”
NEWSポストセブン
安福久美子容疑者(69)の高場悟さんに対する”執着”が事件につながった(左:共同通信)
《名古屋主婦殺害》「あの時は振ってごめんねって会話ができるかなと…」安福久美子容疑者が美奈子さんを“土曜の昼”に襲撃したワケ…夫・悟さんが語っていた「離婚と養育費の話」
NEWSポストセブン
《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
週刊ポスト
優勝パレードでは終始寄り添っていた真美子夫人と大谷翔平選手(キルステン・ワトソンさんのInstagramより)
《大谷翔平がWBC出場表明》真美子さん、佐々木朗希の妻にアドバイスか「東京ラウンドのタイミングで顔出ししてみたら?」 日本での“奥様会デビュー”計画
女性セブン