10月の国慶節の長期休暇に合わせて、中国政府は海外へ渡航する中国人旅行客向けのオフィシャルマナーブックを作成していた。発行元は日本の観光庁に当たる国家機関・中国国家旅游局だ。
『文明旅游出行指南(礼儀正しい旅行の案内)』と題されたハンドブックには、世界に恥ずかしくない旅行者たるための、具体的な注意事項が列挙されている。
〈痰やガム、ごみなどをポイ捨てしない。禁煙場所で喫煙しない〉
〈ホテルの備品を壊さない。水や電気、食べ物を無駄にしない〉
〈どこにでも大小便をしたり、鼻くそをほじったり、歯くそを取ったりしないこと〉
もはや、マナーというより“しつけ”の域のような気もするが……。
さらに国別の対策の項目に驚かされる。
〈日本では食事中に自分の衣服を整えたり、手で髪を直したりしてはならない。日本人の家に客として行く場合は靴下を履き、靴を脱ぐこと〉
食事中に衣服や髪を整えるのは日本でなくてもダメだろう。他にも、
〈ハンガリーではガラスや鏡を割ってはいけない。これは不吉だとみられる〉
〈ネパールでは足で現地人のものにさわってはならない〉
などと、具体的なタブー事例を紹介。しかし、文化云々ではなく日頃の振る舞いとしてどうなのかという違和感は拭えない。さらに、
〈ドイツでは指を鳴らすのは犬を呼ぶためのもの。人を呼ぶときに鳴らしてはいけない〉
〈ギリシャでは気軽に親指を突き出さないこと。これは非常に侮辱的な意味な手振りになる〉
〈オランダではコーヒーをカップ一杯まで満たすことは避けられている。これはとても失礼なことにあたり、カップの3分の2のところまでが良い〉
〈スコットランドでは石で造られた記念品を買ってはならない〉
などのNG例が挙げられているが、元国際線客室乗務員でマナーズコンサルタントの吉門憲宏氏も「聞いたことがない」と首をひねる。
〈スペインでは女性はイヤリングをしなくてはならず、そうでなければ服を着ていないように見られて他人から嘲笑される〉
という項目もあるが、これについては江戸川大学教授の斗鬼正一氏(社会学)が異議を唱える。
「たしかにスペインの女の子は小さいころからピアス穴を開けてイヤリングをしているのが一般的。でも、『服を着ていないように見られる』というのはさすがにいい過ぎです。とくに外国人の観光客であれば、そんな風には思われません」
指導をする側も、一度勉強し直した方がよいのでは。
※週刊ポスト2013年11月1日号