国内

【狼の牙を折れ】三菱重工爆破事件の内幕実名証言【1/6】

 二〇二〇年東京五輪に向けて、危機管理への意識が高まっている。それは、無関心だった原発テロへの懸念と共に切実な問題として浮かび上がっている。だが、かつて東京は世界で最も爆破テロの危機に晒され、それと敢然と闘った都市でもあった。その知られざる闘いの内幕を『狼の牙を折れ 史上最大の爆破テロに挑んだ警視庁公安部』(小学館刊)で門田隆将氏(ノンフィクション作家)が追った。

 * * *
 かつて首都・東京が、「いつ」「どこで」「誰が」爆殺されてもおかしくない“恐怖の地”だったことをご存知だろうか。

 爆破テロは、世界中で今もつづいている。だが、日本の首都・東京は、その遥か前に世界で最も爆破テロの恐怖に晒されていたのである。

 その頃、東京では、ある時はアメリカ大使館の施設へのピース缶爆弾が、またある時は郵便局内で小包爆弾が、さらには、警察幹部の自宅でお歳暮を装った小包爆弾が……という具合に、何者かによる爆破事件が連続し、多くの犠牲者が生まれていた。

 そして、極めつけの爆破事件が一九七四(昭和四十九)年八月三十日に起こった。

 現場は、東京の中心・丸の内の仲通りに面する三菱重工本社である。日本を代表するオフィス街で、史上最大の爆破テロは起こった。
 
 ダイナマイトおよそ七百本分という爆弾の威力は凄まじく、一帯は、さながら激しい空爆を受けたように惨状を呈し、窓ガラスが吹き飛び、柱は曲がり、コンクリート片が路上に突き刺さった。死者八名、重軽傷者三百七十六名を出したこの三菱重工爆破事件で、丸の内仲通りに面した企業ビルの窓ガラスは、四千枚も砕け散った。
 
 犯行声明を出したのは、「東アジア反日武装戦線“狼”」である。“政治闘争”の名を借りて、彼らは連続十一件という企業爆破を繰り返した。どこで爆破が起こるのか、次に犯人が狙うターゲットはどこか──不安と恐怖の中に人々はいた。そんな中で、この謎の犯人グループを追い詰めるために、真っ向から勝負を挑んだ組織があった。

 警視庁公安部である。
 
 それは、あらゆる手段を駆使して敵を追い詰める捜査機関であり、国民の前にヴェールを脱いだことがない秘密の組織でもある。彼らは爆破事件から九か月後、この謎の犯人グループを一網打尽にした。
 
 だが、犯人の一部は、その後に起こったクアラルンプール事件やダッカ事件といった国際人質事件によって、超法規的措置で“出国”していった。警視庁公安部と犯人との闘いは、「現在」も続いているのである。
 
 この警視庁公安部による連続企業爆破犯との闘いの知られざる内幕を、私は当時の刑事たちひとりひとりを数年にわたって訪ね歩き、ついに明らかにすることができた。それは、公安捜査官の証言による初めての実録ドキュメントとなった。
 
 その闘いの真実は、迫りくるテロに対して、今、「何」を語りかけてくれるのだろうか。(つづく)

◆門田隆将(かどた・りゅうしょう)/1958(昭和33)年、高知県生まれ。『この命、義に捧ぐ 台湾を救った陸軍中将根本博の奇跡』(角川文庫)で第19回山本七平賞受賞。近著に『太平洋戦争 最後の証言』(第一部~第三部・小学館)、『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日』(PHP)がある。

※週刊ポスト2013年11月8・15日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

現地取材でわかった容疑者の素顔とは──(勤務先ホームページ/共同通信)
【伊万里市強盗殺人事件】同僚が証言するダム・ズイ・カン容疑者の素顔「無口でかなり大人しく、勤務態度はマジメ」「勤務外では釣りや家庭菜園の活動も」
NEWSポストセブン
中村七之助の熱愛が発覚
《元人気芸妓とゴールイン》中村七之助、“結婚しない”宣言のルーツに「ケンカで肋骨にヒビ」「1日に何度もキス」全力で愛し合う両親の姿
NEWSポストセブン
週刊ポストの名物企画でもあった「ONK座談会」2003年開催時のスリーショット(撮影/山崎力夫)
《巨人V9の真実》400勝投手・金田正一氏が語っていた「長嶋茂雄のすごいところ」 国鉄から移籍当初は「体の硬さ」に驚くも、トレーニングもケアも「やり始めたら半端じゃない」
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(HP/Xより)
《まさかの“続投”表明》田久保眞紀市長の実母が語った娘の“正義感”「中国人のペンションに単身乗り込んでいって…」
NEWSポストセブン
大谷が購入したハワイの別荘の広告が消えた(共同通信)
【スクープ】大谷翔平「25億円ハワイ別荘」HPから本人が消えた! 今年夏完成予定の工期は大幅な遅れ…今年1月には「真美子さん写真流出騒動」も
NEWSポストセブン
フランクリン・D・ルーズベルト元大統領(写真中央)
【佐藤優氏×片山杜秀氏・知の巨人対談「昭和100年史」】戦後の日米関係を形作った「占領軍による統治」と「安保闘争」を振り返る
NEWSポストセブン
運転席に座る広末涼子容疑者
《追突事故から4ヶ月》広末涼子(45)撮影中だった「復帰主演映画」の共演者が困惑「降板か代役か、今も結論が出ていない…」
NEWSポストセブン
江夏豊氏(右)と工藤公康氏のサウスポー師弟対談(撮影/藤岡雅樹)
《サウスポー師弟対談》江夏豊氏×工藤公康氏「坊やと初めて会ったのはいつやった?」「『坊や』と呼ぶのは江夏さんだけですよ」…現役時代のキャンプでは工藤氏が“起床係”を担当
週刊ポスト
殺害された二コーリさん(Facebookより)
《湖の底から15歳少女の遺体発見》両腕両脚が切断、背中には麻薬・武装組織の頭文字“PCC”が刻まれ…身柄を確保された“意外な犯人”【ブラジル・サンパウロ州】
NEWSポストセブン
山本由伸の自宅で強盗未遂事件があったと報じられた(左は共同、右はbackgrid/アフロ)
「31億円豪邸の窓ガラスが破壊され…」山本由伸の自宅で強盗未遂事件、昨年11月には付近で「彼女とツーショット報道」も
NEWSポストセブン
佳子さまも被害にあった「ディープフェイク」問題(時事通信フォト)
《佳子さまも標的にされる“ディープフェイク動画”》各国では対策が強化されるなか、日本国内では直接取り締まる法律がない現状 宮内庁に問う「どう対応するのか」
週刊ポスト
『あんぱん』の「朝田三姉妹」を起用するCMが激増
今田美桜、河合優実、原菜乃華『あんぱん』朝田三姉妹が席巻中 CM界の優等生として活躍する朝ドラヒロインたち
女性セブン