国内

大新聞の増税賛成 霞が関が記者の取り込み方熟知してるから

 大メディアは政府や役所の政策をチェックする役割を放棄し、消費増税問題では財務省の応援団と化して、「増税礼賛」の大本営発表に終始した。ジャーナリスト・長谷川幸洋氏が指摘する。

 * * *
 普通、記者は入社するとまず地方の支局に配属される。そこで最初に割り当てられる典型的な仕事がサツ回り、つまり警察の取材である。新人記者は上司から次のように叩き込まれる。
 
「君の仕事は事件の真相を調べることではない。警察が何を調べているかを取材することだ」。そして「○○署によると~」というように、警察の調べを根拠にして記事を書く作法を覚えていく。
 
 財務省を担当するようになっても構図はまったく同じである。記者は財務省の政策の是非を論ずるのではなく、官僚が何を考えているかをいち早く突き止めて記事を書くのが仕事になる。「財務省によると~」となるのである。
 
 そうした記者が出世して論説委員になる。だが、社説を書くようになっても、彼らは新人記者時代のマインドセットから抜けきれない。日銀が「金融緩和は十分している」と言えば、その通り社説を書き、財務省が「財政再建のために増税が必要」と言えば、その枠組みの中で論を立てる。新聞が役所の主張を丸呑みしてしまうのは、「役所が言う話を書く」という体質が新人時代から記者に染みついているからだ。
 
 財務省は毎年、年末の予算編成が終わった後、記者クラブに加盟しているマスコミ各社の論説委員と経済部長を集めて、大会議室で「論説委員経済部長懇談会」(論説懇)を開く。事務次官、主計局長ら財務省幹部がずらりと顔をそろえる。だが、懇談会とはいいながら実質的に意見を交わすことはない。財務省側が増税方針などを説明し、自分たちに都合のいい記事を書いてもらうよう、論説委員や経済部長に働きかける場なのである。
 
 真正面から社説で「増税反対」の論陣を張っていた私は、数年前から論説懇にお呼びがかからなくなった。広報課長に「私が呼ばれないのは増税に反対しているからか」と聞いたが、「単なる事務的ミスです」という返事だった。しかし、その後も声がかからない。財務省に楯突く論説委員はお呼びでないのである。
 
 霞が関の官僚はどうすれば記者を取り込むことができるか、熟知している。たとえば目をつけた記者に「まだ公表していない資料だけど、君にだけあげよう」と、政策ペーパーを手渡す。もらった記者は「特ダネだ」と大喜びするが、これは記者を手なずけるためのエサなのだ。記者は役所の意に沿う記事を書けば書くほどエサをもらえるようになる。やがて周囲から「特ダネ記者」「敏腕記者」などと褒めそやされる。そうやって「役所のポチ」となった記者は、思考停止したままデスク、部長に出世していくのだ。論説委員は「クラブ記者」の上がりポストでもある。
 
 大新聞の社説が「増税賛成」でまとまり、まるで財務省の大本営発表のようになった背景にはそうしたマスコミ業界と役所をめぐる構造的な事情があるのだ。

※SAPIO2013年12月号

関連記事

トピックス

万博で身につけた”天然うるし珠イヤリング“(2025年8月23日、撮影/JMPA)
《“佳子さま売れ”のなぜ?》2990円ニット、5500円イヤリング…プチプラで華やかに見せるファッションリーダーぶり
NEWSポストセブン
次の首相の後任はどうなるのか(時事通信フォト)
《自民党総裁有力候補に党内から不安》高市早苗氏は「右過ぎて参政党と連立なんてことも言い出しかねない」、小泉進次郎氏は「中身の薄さはいかんともしがたい」の評
NEWSポストセブン
阪神の中野拓夢(時事通信フォト)
《阪神優勝の立役者》選手会長・中野拓夢を献身的に支える“3歳年上のインスタグラマー妻”が貫く「徹底した配慮」
NEWSポストセブン
9年の濃厚な女優人生を駆け抜けた夏目雅子さん(撮影/田川清美)
《没後40年・夏目雅子さんを偲ぶ》永遠の「原石」として記憶に刻まれた女優 『瀬戸内少年野球団』での天真爛漫さは「技巧では決して表現できない境地」
週刊ポスト
朝比ライオさん
《マルチ2世家族の壮絶な実態》「母は姉の制服を切り刻み…」「包丁を手に『アンタを殺して私も死ぬ』と」京大合格も就職も母の“アップへの成果報告”に利用された
NEWSポストセブン
チームには多くの不安材料が
《大谷翔平のポストシーズンに不安材料》ドジャースで深刻な「セットアッパー&クローザー不足」、大谷をクローザーで起用するプランもあるか
週刊ポスト
ブリトニー・スピアーズ(時事通信フォト)
《ブリトニー・スピアーズの現在》“スケ感がスゴい”レオタード姿を公開…腰をくねらせ胸元をさすって踊る様子に「誰か助けてあげられないか?」とファンが心配 
NEWSポストセブン
政権の命運を握る存在に(時事通信フォト)
《岸田文雄・前首相の奸計》「加藤の乱」から学んだ倒閣運動 石破降ろしの汚れ役は旧安倍派や麻生派にやらせ、自らはキャスティングボートを握った
週刊ポスト
2013年に結婚した北島康介と音楽ユニット「girl next door」の千紗
《不倫報道で沈黙続ける北島康介》元ボーカル妻が過ごす「いつも通りの日常」SNSで垣間見えた“現在の夫婦関係”
NEWSポストセブン
秋篠宮家の長男・悠仁さまの成年式が行われた(2025年9月6日、写真/宮内庁提供)
《凜々しきお姿》成年式に臨まれた悠仁さま 筑波大では「やどかり祭」でご友人とベビーカステラを販売、自転車で構内を移動する充実したキャンパスライフ
NEWSポストセブン
自身のYouTubeで新居のルームツアー動画を公開した板野友美(YouTubeより)
《超高級バッグ90個ズラリ!》板野友美「家賃110万円マンション」「エルメス、シャネル」超絶な財力の源泉となった“経営するブランドのパワー” 専門家は「20~30代の支持」と指摘
NEWSポストセブン
志村けんさんが語っていた旅館への想い
《5年間空き家だった志村けんさんの豪邸が更地に》大手不動産会社に売却された土地の今後…実兄は「遺品は愛用していた帽子を持って帰っただけ」
NEWSポストセブン