当然ながらBさんも、「取り違え」の被害者である。Aさんと同様に、Bさんが病院に対して損害賠償請求を起こすこともできる。実の両親に会うことも、育ててもらうこともできなかったのはBさんも同じだ。しかし、その賠償額は、Aさんの場合より少額になる可能性が高い。

「この手の損害賠償請求の場合、逸失利益と慰謝料を合わせて請求することになる。逸失利益は、本当の親のもとで育った場合に得た生涯賃金と、実際の生涯賃金の差額となります。

 実際の賃金のほうが大きいB氏の場合は逸失利益の請求ができず、慰謝料請求のみになるでしょう。また、B氏が遺産分割の無効によって失った財産を、病院に請求することもできません」(荘司弁護士)

 Aさんは今、月に1度3人の実弟たちと食事にでかけながら、自宅で“兄”の介護をする日々という。実弟からは、「あと20年は生きられるから、これまでの分を取り戻そう」と声をかけられ涙したという。

 BさんとAさん、どちらの人生が幸福だったのか、それは誰にもわからない。ただ間違いなくいえるのは、2つの家族の60年を狂わせた、医療機関の罪は重いということだ。

※週刊ポスト2013年12月13日号

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