ライフ

絶望の中にあっても希望を見出す○でも×でもない△の生き方

 東日本大震災から間もなく3年。復興までの道のりはまだまだ遠い。医師で作家の鎌田實氏は、困難な状況であるほど、「正解=○」ではない「別解=△」が絶望を希望に変え、新しい発想や力になると説く。

 * * *
 2011年3月、東日本大震災発生直後から現地と連絡をとり、僕は諏訪中央病院の医師団として、福島県南相馬市に入りました。

 遺体安置所に行くと、40代の女性が遺体に花を手向けている。お話を伺うと、ご両親が亡くなったという。お悔やみを申し上げると、「でも良かったです」と言うのです。

「地震で潰れた家の中で2人一緒でした。バラバラだったらきっと寂しかったでしょう。でも一緒だったから良かった」

 私たち日本人はこれまで、「正解」ばかりを求めて生きてきました。○が幸せで、×が不幸せ。でも、彼女は違った。絶望的な状況の中でも、少しでも良いことを探して絶望に耐えようとしていた。僕は遺体安置所で、大切なことを教わりました。

 被災地ではこんな方にも出会いました。宮城県の南三陸町に住む40代の女性は、地元で会社の社長をしていましたが、震災で会社だけでなく、家も夫も失った。その方がこう言ったんです。

「すべてを失って人生どん底だと思っていましたけど、そこからちょっとでも脱したら、△になるんですね」

 彼女たちの言葉が教えてくれる通り、生きていく上では正解ではなく「別解」という考え方が大切だと思います。正解の○でも、不正解の×でもない、△です。それは、どんな絶望の中にあっても、発想を変えて希望を見出す力につながります。

 今から30数年前、日本は「ウォークマン」という画期的な商品を世に出しました。全世界で3億台以上売ったというのだから凄まじいものです。同じ頃、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」という言葉も流行して日本は絶頂期でした。

 でも、その後の日本は「iPod」も「iPhone」も生み出せなかった。それはなぜか。日本という国が、「成功」に縛られてしまったからだと思います。1つの正解を手に入れ、「技術を高め、いいモノを作れば売れる」と思い込んでそれに固執してしまった。だから「iPod」や「iPhone」という「別解」が出てこない。

 今の日本を覆っている閉塞感は、この例と同根だと感じます。

関連キーワード

関連記事

トピックス

ロッカールームの写真が公開された(時事通信フォト)
「かわいらしいグミ」「透明の白いボックス」大谷翔平が公開したロッカールームに映り込んでいた“ふたつの異物”の正体
NEWSポストセブン
大谷と真美子さんの「冬のホーム」が観光地化の危機
《白パーカー私服姿とは異なり…》真美子さんが1年ぶりにレッドカーペット登場、注目される“ラグジュアリーなパンツドレス姿”【大谷翔平がオールスターゲーム出場】
NEWSポストセブン
和久井被告が法廷で“ブチギレ罵声”
【懲役15年】「ぶん殴ってでも返金させる」「そんなに刺した感触もなかった…」キャバクラ店経営女性をメッタ刺しにした和久井学被告、法廷で「後悔の念」見せず【新宿タワマン殺人・判決】
NEWSポストセブン
初の海外公務を行う予定の愛子さま(写真/共同通信社 )
愛子さま、初の海外公務で11月にラオスへ、王室文化が浸透しているヨーロッパ諸国ではなく、アジアの内陸国が選ばれた理由 雅子さまにも通じる国際貢献への思い 
女性セブン
几帳面な字で獄中での生活や宇都宮氏への感謝を綴った、りりちゃんからの手紙
《深層レポート》「私人間やめたい」頂き女子りりちゃん、獄中からの手紙 足しげく面会に通う母親が明かした現在の様子
女性セブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
《ママとパパはあなたを支える…》前田健太投手、別々で暮らす元女子アナ妻は夫の地元で地上120メートルの絶景バックに「ラグジュアリーな誕生日会の夜」
NEWSポストセブン
グリーンの縞柄のワンピースをお召しになった紀子さま(7月3日撮影、時事通信フォト)
《佳子さまと同じブランドでは?》紀子さま、万博で着用された“縞柄ワンピ”に専門家は「ウエストの部分が…」別物だと指摘【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン