他にも、2012年には元東邦大学准教授の麻酔科医が国内外の専門誌に発表した193本の論文に疑惑が投げかけられ、論文の撤回に追い込まれるという事件もあった。いずれも「患者不在」の構図は変わらない。東京大学医科学研究所の上昌広・特任教授はこう指摘する。
「製薬会社の社員は裏側では、『奨学寄付金は大学病院勤務の医師に対する営業経費』だとはっきり明言しています。医師に営業する(カネを渡す)ことが、薬の販売促進に繋がるということを、医薬品業界で知らない者はいません。
その背景にあるのは、医薬品は公定価格が決まっていて、他の商品のように値下げなど価格競争ができないこと。そのため製薬会社は売り上げを増やすために、奨学寄付金という営業行為に血眼になる。この歪な癒着構造を変革するには、国による価格統制を緩和するしかありません」
同様に現状に強い危機感を抱くのは、近畿大学医学部講師の榎木英介氏である。
「製薬会社とあまり接点のない私のような病理専門医から見ると、大学医学部と製薬会社の関係は異常に映ります。まだ医学生の時から、製薬会社の営業マンは目星を付けた医者の卵にボールペンやメモ帳を提供したり、お弁当を差し入れしたりといったアプローチで関係を深めていく。
研修医になる頃には、論文を探してきてあげたり、タクシーチケットを配ったりと、さらに密接な関係を作る。その長年の馴れ合いの延長線上に、一部とはいえ、患者の健康や存在を無視したまま医薬品が販売・宣伝される現状があります。これは何としても是正されねばなりません」
薬も医師も信用できないとしたら、患者は何を信じればいいのか。
※週刊ポスト2014年3月14日号