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昭和天皇と偽物の指輪のエピソード 元参議院のドンが明かす

 昭和天皇が崩御されてから25年。かつて“参議院のドン”と呼ばれた村上正邦・元自民党参議院議員会長が、新刊『だから政治家は嫌われる』(小学館刊)の中で、昭和天皇の知られざるエピソードを明かした。

 * * *
 たぶん、昔の人なので覚えている人も少ないと思うけど、重宗雄三さんという参議院議長をされていた方がおられてね。佐藤栄作内閣の頃に参議院議長をされていた。

 これはその重宗さんから聞いた話だ。インドネシアのスカルノ大統領が日本にお見えになったときに、天皇陛下(昭和天皇)の主催で晩餐会が開かれた。そのときに議長夫妻が晩餐会に呼ばれたんだ。

 重宗さんは大崎にご自宅があって、議長はちゃんとモーニングを着て、車寄せに車が来たから、車に乗った。ところが奥さんがなかなか出て来ない。「おい、どうしたんだ」と、声をかけたら、奥さんがあたふたと出て来た。いったん車に乗ったが「あら、あら、忘れ物」って言って出て行き、玄関にお見送りに出ていた小学生のお孫ちゃんに、「私の部屋の、鏡台の上に指輪を忘れたから、持って来てよ」って。

 重宗さんが「もう、そんな時間はないよ」って言ったら、奥さんは「じゃあ、その指輪でいいわ」って言って、お孫ちゃんがしてたガラスの指輪をもらって、奥さんはその指輪をして、皇居へ行った。

 小学生の女の子がしていたオモチャのガラスの指輪ですよ。だけど、はめた瞬間、そんなことは忘れてしまっている。それで、晩餐会の席へ出た。

 そしたら、陛下、昭和天皇が、「おい、重宗」と、声をかけられたって言うんだ。昭和天皇は、くん付けだとか、さん付けはしないからね、戦前の習慣で。「おい、重宗」と。

「おまえの奥は素晴らしい指輪をしてるな。キラキラ光ってる」と陛下が言われたというんだ。本物の宝石よりガラスのほうがシャンデリアの光に反射してよく光るんだ。

 そう言われた瞬間に、重宗さんははっと気づいて、冷汗がたらたらっと出たって言うんだ。それで、「あれはニセモノです。ガラス細工です」って、こう言った。すると、陛下はこうおっしゃったと言うんだ。

「ガラスはニセモノか?」

 陛下に、ニセモノも本物もないじゃないかって、こう言われたことに、重宗議長は、「凡人のわれわれを超越したところに、陛下は常にお考えがあるんだということがそれでわかった」と、「陛下っていうのはそういうお方なんだ」ということを、お話しくださった。

 この話を聞いて、私は、陛下の素晴らしさはもちろんだけども、ざっくばらんにこういう話ができる重宗さんも偉いなと思ったね。

※村上正邦/著『だから政治家は嫌われる』(小学館)より

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