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物理的刺激で再生医療応用へ 期待の「メカノバイオロジー」

 身体は重力や大気圧など物理的刺激を常に受けている。細胞は物理的刺激の影響の下に、その機能を維持しているという新しい考え方がメカノバイオロジーだ。例えば膝の軟骨は歩行時に30気圧かかっている。実験で、1気圧で軟骨再生を試みても、小さくもろい骨しかできないが、高い静水圧を加えると大きく丈夫な軟骨ができることが判明。再生医療応用への取り組みが始まっている。

 宇宙飛行士が地球に帰還すると、当初は歩けない。これは無重力状態で骨や筋肉が弱ったためといわれる。このように人間の体は常に重力や大気圧、静水圧、浸透圧など場所によって違う物理的刺激を受けており、細胞はそれを感じる力を持っている。

 細胞はその刺激によって、細胞同士の変化や遺伝子発現の調整など、生命活動に必要な対応を行なう。細胞がどんな力を感じて対応しているのか、再生医療におけるメカノバイオロジーの研究が進んでいる。

 日本医科大学付属病院形成外科・美容外科の小川令准教授に話を聞いた。

「ハーバード大学と共同研究で、軟骨の基本成分であるコラーゲンスポンジで軟骨を作る実験をしました。培養皿で条件を整えて実験しても小さな軟骨しかできませんでした。膝の軟骨は水深300メートルに相当する30気圧が歩行時にかかっています。そこで、特別なバイオリアクター(培養器)で、高い静水圧をかけて培養したところ、密度の高い大きな軟骨ができました」

 さらに脂肪組織から取り出した幹細胞(いろいろな細胞に分化できる細胞)を軟骨再生に必要な培養液に入れ、静水圧をかけて培養したところ、移植に十分と思える軟骨を再生でき、膝軟骨の再生医療の可能性が見えつつある。

■取材・構成/岩城レイ子

※週刊ポスト2014年5月2日号

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