80年以上続く老舗酒屋の3代目、坪田維修さん、康子さん夫婦
なるほど、“東洋の魔女”や“鬼に金棒小野に鉄棒”で沸いた東京五輪のころ、そして昭和40年代の酒屋さんは、こんな感じだったかもしれない。
しかし、常連客の心はもうひとつ違うところを見ていた。
「ここの主人夫婦って、気を使っていない振りをしていて、実は気を使ってくれてるんだよね。これって客からするとうれしいし、最高の肴ですよ。同じ酒を飲むなら、こういう店でしょ」(35歳、自営業)
「ただいまと言って入ってくるから、お帰りって迎えてくれないかなとか、カップでいいから焼きそば食べたいとか、かなり好き勝手なことをごり押ししているんだけどね。嫌な顔ひとつしないで、気軽に受け入れてくれるんだよ。もう2年通ってるけど、裏表がない夫婦だね」(60代直前、建設業)
さらに言えば、BGMの選曲も客の要望最優先。この日、店のムードを作っていたサザンの名曲のメドレーは、40代サラリーマングループからのリクエストだったが、驚くほどに角打ちに溶け込んでいた。
なるほど。酒よりも維修さんと奥さんの康子さん、この二人がすでに店先からみんなをやさしく包んでくれていたというわけだ。