1980年代に大ヒットしたウォークマンはその代表であり、ソニーは携帯音楽プレーヤーという市場を開き、人々のライフスタイルそのものを変えた。振り返れば、トランジスタラジオ、家庭用VTR、高画質なトリニトロンカラーテレビ、ハンディカムなど消費者がワクワクするような商品を世に出し続けてきたのがソニーだった。
VAIOは後追いのデジタル商品だった。それでも売れたのは、デザイン力により高いブランド価値を持っていたからだ。剛性感ある手触りや見た目など、ある意味でアナログな要素が、人と違うパソコンを求める層に受け入れられた。 「しかし、ソニーは途中から主に新興国向けに、低価格な普及品を展開しました。質よりも量を求めた結果、VAIOのブランド価値は落ちてしまいました」(ITジャーナリストの本田雅一氏)
“ソニーらしさ”“ブランド価値”といっても、情緒的・抽象的なものではない。多くのデジタル製品が、CPUやパネルなどを調達すればどこでも誰でも組み立てられるコモディティ商品となった時代には、アップルのようにファブレス(工場を持たない)になって設計力で戦うか、サムスンのように数で勝負して価格競争力・価格決定権を持つかといった他を圧倒するビジネスモデルが必要だ。
ソニーの場合は「これは欲しい」「持っているだけでかっこいい」というブランド価値こそ競争力の源泉だったのであり、ソニーらしさの喪失はダイレクトに業績に反映してきた。
※SAPIO2014年5月号