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突発性難聴の新治療 積極的に音楽を聴かせ聴力を回復させる

 突発性難聴で医療機関を受診する患者は、1万人あたり年間約3人で年々増加傾向にある。突然片方の耳の聴力が低下する原因不明の病気で、30代から発症が増え50~60代でピークとなる。治療法はステロイド療法や血管拡張剤・抗ウイルス薬服用、高気圧酸素療法などあるが、どれも明確に効果が確定していない。

 標準治療であるステロイド療法は、血糖値や血圧上昇など副作用の問題もある。そこで突発性難聴の新治療として、難聴のある耳に積極的に音楽を聴かせて聴力を回復させるリハビリテーション療法が開発された。

 自然科学研究機構生理学研究所(愛知県岡崎市)の岡本秀彦准教授に話を聞いた。

「脳梗塞で片側麻痺の患者に対し、麻痺がない手足をギプスで固定して、麻痺側の手足をできるだけ使わせるリハビリ療法があります。一所懸命動かすと脳の神経細胞が再構築して、手足の機能が少しずつ回復することを利用したものです。人間の身体は使っていないと脳が不要であると判断し、機能が衰えて使えなくなります。これを難聴に応用したのが音楽を使ったリハビリテーション療法です」

 音楽を利用したリハビリテーション療法は正常な耳に耳栓をして、難聴の耳で会話や生活音を聞かせ、さらに1日6時間、片耳ヘッドホンでクラシック音楽を聴かせる。臨床研究は発症後5日以内の中程度の突発性難聴の患者に対し、共同研究病院にて10日間の入院で行なわれた。内訳はステロイド治療のみが31人、ステロイドと音楽リハビリ併用が22人である。

「能動的に聴くことで、脳と耳双方の情報伝達が改善し、脳が再構築します。治療後3か月の聴力検査結果は、ステロイド療法の58%が完全回復、19%が少し回復しました。併用療法は86%が完全に回復、14%が少し回復と圧倒的に優位な結果となりました。難聴前の聴力が不明なので、左右の聴力の差を比べて判定しています」(岡本准教授)

■取材・構成/岩城レイ子

※週刊ポスト2014年5月23日号

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