少なくともここは国際的に注目が集まる係争地帯である。だがこの国は意に介さない。ベトナム艦船への度重なる体当たり、傍若無人な石油採掘。このところの中国の力による領土拡張は止まることを知らない。中越「一触即発」の状態と化したパラセル(中国名・西沙)諸島海域。しかし、肝心の島に上陸すると事態はさらに深刻を極めていた。
砂浜では若いカップルが抱き合って写真を撮り、海ではダイビングを楽しむ観光客──。昨年4月、中国はそれまで一般人の立ち入りを禁止していたパラセル諸島への観光ツアーを解禁した。ここに掲載した写真は、その解禁直後に本誌が潜入撮したツアーの様子だ。
ベトナムと領有権を争うパラセル諸島だが、中国はここ数年、実効支配の既成事実化を強引に進めている。今回の観光ツアーも、その中身は政治色を帯びる。参加できるのは、中国籍を持つ者のみで、台湾籍や香港籍は許されない。申し込みには、身分証を提示し、当局の審査が必要だ。そしてパラセル諸島へ向かうクルーズ船内では、ガイドや元軍人スタッフによって「西沙諸島は中国領である」という愛国教育が繰り返される。
ツアーは1人5000元(約8万円)からと決して安くはないが、当初の月2回から増え続け、今では毎週数本のツアーが出発するほど大盛況。そして中国とベトナムの艦船が衝突したその時も、近くのパラセルの島々では、中国人観光客が「南の島」を満喫していた。
中国は、フィリピンと領有を争うスプラトリー(中国名・南沙)諸島でも軍の基地を建設し、土砂を運んで埋め立てを進めている。尖閣を抱える我が国にとって、これらは対岸の火事ではない。
※週刊ポスト2014年5月30日号