15年ほど前に、猫の殺処分数が犬のそれを逆転したままになっている。放し飼いで繁殖しやすい猫対策には、不妊去勢手術が不可欠だ。それを国が後押しすることに異論のある人は少ないはず。しかし、マイクロチップ施術については、その有効性や関係者の利権に対する批判の声がけっこうある。
「譲渡」はもっと身近になるといい。でも、啓蒙活動にはありきたり感がある。このプロジェクトでつくられた動画の「ペットを飼う覚悟と責任」(大人向け)、「ほんとうに飼えるかな?」(子供向け)がYouTudeで公開中だけれど、どちらも視聴回数は少ない。こうした説教に人は耳を貸さない。
それよりも私が国にしてもらいたいと思うのは、「なぜ犬の殺処分数が減っているのか」についての研究だ。犬猫数の殺処分数が逆転したと触れたが、それは猫の殺処分数が増えているということではない。実は、平成に入ってからこっち、犬の殺処分数が大きく減り続けていて、平成12年度に猫の数値よりも少なくなったのだ。
平成元年度の犬の殺処分数は68.7万頭だった。それが最新データの平成24年度では3.8万頭にまで減っている。およそ四半世紀で18分の1の激減だ。それでも「1年間に3.8万頭、1日平均104頭ものワンちゃんが……」と嘆くことはできるし、「将来的にゼロにする」という考え方にも大賛成だが、なぜ減ったのかについてのきちんとした論考を読んだことがない。
犬の飼育数自体はむしろ増えている。なのに殺処分数が減っているのは、保健所や動物愛護センターなどの行政機関で引受ける犬の数が減ったからである。では、なぜ引受け数が減ったのだろう。
飼い主の安易な飼育放棄を行政が認めなくなってきたから? 引受け犬の「譲渡」が増えたから? 動物愛護系NPOの活動の成果? それとも、犬の飼育の意味が、「番犬として」から「家族として」へと大きくシフトしたから? あるいは、犬の殺処分問題を口にすることがタブーでなくなり、「それは嫌だよね」と普通に感じられるだけの情報環境が整ってきたから?
おそらく上記した内容は、すべて減少理由である。だが、時期や地域ごとに、引受けが減った主たる要因は違うだろう。そこを細かく調べ、比較分析すれば、「犬の殺処分が少なくなる法則」が見えてくるのではないだろうか。
学際的な研究になるだろうが、予算があれば取り組んでみたいという研究者はいくらでもいそうだ。その研究から導き出された結論はどんなもので、殺処分ゼロを目指す未来にきっと役立つ。
テーマは暗いかもしれないが、四半世紀で18分の1という数字がもっている意味はポジティブなものである。この件に関して過去を振り返ることは、「人と動物が幸せに暮らす社会の実現プロジェクト」というタイトルに相応しい前向きな行為なのだ。ぜひ、次の「アクションプラン」に、研究費の予算化を盛りこんでいただきたい。