消費者モニターとの面談を重ねた結果、問題のありかが見えてきた。「最も痛いのは、つま先部分」と判明。ところが靴の業界においてさえ、解決策はほとんど存在していなかった。

「そこでどんなパーツを入れて対処すべきか、モニターに意見を聞きながらさらに探っていったのです。

 痛みの主な原因はヒールの傾斜で足が前にずれるから。そこで滑りにくい中敷きを入れる一方で、踵部分に凹みを作って滑りを止めるホールドパーツを独自に開発し、踵をずれにくくすることでつま先の痛さを解決したのです。その都度モニターに履いてもらって意見を聞き、またサンプルを修正する、といった作業を3回、5回と重ねていきました」

 その間約10か月。とうとう「痛くなりにくいパンプス」の形が見えてきた。

 しかし、越えなければならない高いハードルがもう一つ立ちはだかった。

「つま先、足裏、全体の安定感などといった複数の項目について、とにかくモニター全員の評価で80点以上がつかなければ商品としてデビューできない、という自主基準を設けたのです」

 消費者一人ひとりと時間をかけて対話しトライ&エラーを厭わず、さらに全員が評価するまで商品化しない。そんな徹底した自己規定によって生まれた『ラクチンきれいパンプス』は、発売と同時に評判を呼んだ。「見た目は普通のパンプスなのに、歩きやすくて痛くなりにくい」と人気に火がついた。

 商品開発に独自の工夫が注がれただけではない。丸井の店舗へ一歩入ると、「ラクチンシリーズ」という大きな文字が目に飛び込んでくる。「このPBで勝負するのだ」という強い意気込みが伝わってくる。

 売り場にも徹底した工夫が。正面に広い「試し履き」スペースがある。多彩なサイズを準備して、客に自由に履いてもらう仕掛けだ。

 消費者の微細な感覚にこだわった商品開発、ディスプレイの仕方、売り場を作る編集力。ファッションで培ってきたコーディネート力をいかんなく発揮した結果、『ラクチンきれいパンプス』は100万足を売るヒット商品へ。その開発手法は次々に他のアイテムにも活用されていった。

※SAPIO2014年7月号

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