スポーツ

高校野球 ネット裏で「ぼっち観戦」する高齢者たちの醍醐味

 高校野球は時代を映す鏡でもある。フリーライター・神田憲行氏がスタンドで見た「老人格差」とはなにか。

 * * *
 平日の午前中に地方大会の球場に行くと、観衆の中に試合をしている両校関係者ではない、年金生活者であろうリタイア世代の人たちが多いことに気づく。その人たちを観察していると、「二つの層」に分かれていることに気づく。

 ひとつは名門高校のOB、OGたちだ。

 彼らは集団でやって来て賑やかに座っているからすぐわかる。「シゲちゃん」「サトシ」とか下の名前で呼び合い、校名のタオルマフラーを首に掛けたり、メガホンも持っている。もちろん校歌は全力で歌う。慶應義塾高校の試合ではネット裏にひときわ賑やかな団体がいた。「ビールの売り子さんは回ってこないの?」とか言ってる。地方大会の球場ではビールは売店で買えるが売り子はいない。男子校なのに同年配の女性もいるから、慶応ヒエラルキーの頂点に君臨する幼稚舎出身の方々かしら。

 試合が始まってもどこまでルールをわかっているのか不明だが、ヒットが出れば拍手をして、点を取られると子どもみたいに悔しがる。

 自分たちの試合が終わると、第2試合は見ずにそそくさと球場を後にする。繰り出すのは近くでやってる居酒屋やパブだ。高級な店ではないが、プチ同窓会のように同じ世代だけでなく年の離れたOBたちとビールをあおる。高校野球は年に1度、そういう「場」として機能しているんだなと思う。

 もうひとつのリタイア世代は、たったひとりでやってくる。

 開門するやすぐ飛び込んでスタンドの隅にぽつんと座り、ただグラウンドを見つめている。スコアを付けるわけでもない。拍手するわけでも残念がるわけてもない。ときおり家から持ってきたタオルで汗を拭い、淡々と目の前の試合を目で追っている。もちろん第1試合だけで引き上げずに続いて第2試合も、陽射しに身体を丸めている。

 観戦料は何試合見ても1日500円。でも毎日通うと費用がかかる。球場内の水や食べ物は割高だから、お昼になるとごそごそとビニールのエコバッグから取り出すのはコンビニのオニギリや水筒だ。一日の終わり、球場からの帰り道で今日見たファインプレーや熱戦を語り合う友は彼にはいない。

 「老人格差」といのうは大げさだが、彼らの間には明らかに太い一本の線が引かれている。関東出身でも一流高校出身でもない私が30年後にたどり着くのは、後者で間違いない。朝は無駄に早起きして、老人パスで無料になったバスや電車に身を揺られ、なけなしの500円を支払ってネット裏にぽつんと座るのだ。

 せめてエコバッグから取り出すのは妻が作ってくれた弁当でありたいなあ。

「あらあら今日も見に行くの? 毎日毎日お疲れさまね」

 と笑われながら、妻が用意してくれた弁当。球場でも手のひらに載るぐらいの小さな、丸いお弁当を取り出してついばんでいるお年寄りがいた。あれが私の理想の着地点かもしれない。

関連キーワード

関連記事

トピックス

上原多香子の近影が友人らのSNSで投稿されていた(写真は本人のSNSより)
《茶髪で缶ビールを片手に》42歳となった上原多香子、沖縄移住から3年“活動休止状態”の現在「事務所のHPから個人のプロフィールは消えて…」
NEWSポストセブン
ラオス語を学習される愛子さま(2025年11月10日、写真/宮内庁提供)
《愛子さまご愛用の「レトロ可愛い」文房具が爆売れ》お誕生日で“やわらかピンク”ペンをお持ちに…「売り切れで買えない!」にメーカーが回答「出荷数は通常月の約10倍」
NEWSポストセブン
王子から被害を受けたジュフリー氏、若き日のアンドルー王子(時事通信フォト)
《10代少女らが被害に遭った“悪魔の館”写真公開》トランプ政権を悩ませる「エプスタイン事件」という亡霊と“黒い手帳”
NEWSポストセブン
「性的欲求を抑えられなかった」などと供述している団体職員・林信彦容疑者(53)
《保育園で女児に性的暴行疑い》〈(園児から)電話番号付きのチョコレートをもらった〉林信彦容疑者(53)が過去にしていた”ある発言”
NEWSポストセブン
『見えない死神』を上梓した東えりかさん(撮影:野崎慧嗣)
〈あなたの夫は、余命数週間〉原発不明がんで夫を亡くした書評家・東えりかさんが直面した「原因がわからない病」との闘い
NEWSポストセブン
テレ朝本社(共同通信社)
《テレビ朝日本社から転落》規制線とブルーシートで覆われた現場…テレ朝社員は「屋上には天気予報コーナーのスタッフらがいた時間帯だった」
NEWSポストセブン
62歳の誕生日を迎えられた皇后雅子さま(2025年12月3日、写真/宮内庁提供)
《愛子さまのラオスご訪問に「感謝いたします」》皇后雅子さま、62歳に ”お気に入りカラー”ライトブルーのセットアップで天皇陛下とリンクコーデ
NEWSポストセブン
竹内結子さんと中村獅童
《竹内結子さんとの愛息が20歳に…》再婚の中村獅童が家族揃ってテレビに出演、明かしていた揺れる胸中 “子どもたちにゆくゆくは説明したい”との思い
NEWSポストセブン
日本初の女性総理である高市早苗首相(AFP=時事)
《初出馬では“ミニスカ禁止”》高市早苗首相、「女を武器にしている」「体を売っても選挙に出たいか」批判を受けてもこだわった“自分流の華やかファッション”
NEWSポストセブン
「一般企業のスカウトマン」もトライアウトを受ける選手たちに熱視線
《ソニー生命、プルデンシャル生命も》プロ野球トライアウト会場に駆けつけた「一般企業のスカウトマン」 “戦力外選手”に声をかける理由
週刊ポスト
前橋市議会で退職が認められ、報道陣の取材に応じる小川晶市長(時事通信フォト)
《前橋・ラブホ通い詰め問題》「これは小川晶前市長の遺言」市幹部男性X氏が停職6か月で依願退職へ、市長選へ向け自民に危機感「いまも想像以上に小川さん支持が強い」
NEWSポストセブン
割れた窓ガラス
「『ドン!』といきなり大きく速い揺れ」「3.11より怖かった」青森震度6強でドンキは休業・ツリー散乱・バリバリに割れたガラス…取材班が見た「現地のリアル」【青森県東方沖地震】
NEWSポストセブン