育児放棄をする親がいる一方で、過保護なモンスターペアレントも社会問題となっている昨今。親としては、どういうスタンスで子供と向き合うことが正解なのだろうか? 思想家の内田樹さんが、自身の体験をもとに親のあるべき姿を説く。
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ぼくは娘が4才の時から18才になるまで、男手ひとつで子育てをしました。子供にはとにかく生き延びてくれさえすればいいと思っています。生き延びて、大人になってほしい。それが唯一の願いでした。大人になってもらうためにいちばん効率的な方法は大人として扱うことです。
ただし、その方法はひとつではなくて、後ろから押したり、前から引っ張ったり、励ましたり、突き放したり、そのつど親のやることは変わります。
でも、子供のことは基本的に信用していたし、なるべく干渉しないようにしていました。とはいえ、子供への対応は臨機応変です。自分で決めた教育方針に固執して、子供が変化しても同じようにかかわるというのはうまくないです。コップに、水道の蛇口から水を入れると、コップを握る手の力加減は変わっていきますよね。
水が少ない時は軽く握ればいいけれど、水が増えてきたら握力を強める。子供の成長と親の関与はちょうどその逆です。成長するにつれてだんだん握力を緩めてあげる。子供について2つ選択肢があれば「どちらが子供の成熟に役立つか」を基準に選ぶようにしてきました。
娘とは今でも仲がいいですよ。思春期に子供のプライドを傷つけるようなことはしていませんから。こっちはもっと一緒にいたいけど、子供は親から離れたい、そういうズレはありましたけれど、親子はそういうものですよ。
親子のコミュニケーションは、基本的にうまくいかないものです。「子を持って知る親の恩」なんてまだいいほうで、「墓に布団は着せられず」というのが親子関係の普通の形なんです。親が死んだ後にやっと親の気づかいがわかる。親子って、それくらいにすれ違うものなんです。そう覚悟して暮らした方が気楽ですよ。
※女性セブン2014年8月14日号