こうして見ると、企業側がWEの規制緩和を大義名分に、いかに若手社員の給料を引き下げたいかの意図も透けてこよう。前出の溝上氏はこんな試算をしている。
「経済界が求めている全労働者の10%がWEの対象となって残業代が削られたとすると、年間2兆円以上の人件費削減効果が見込めるでしょう。しかし、もともと年収が低い若手社員は、たとえば31歳で約140万円、39歳で約203万円(月50時間の残業で試算)が減らされることになります」
これまで日本企業で慣習となってきた“労働時間と賃金”の関係は、そう簡単に切り離せないのが実情なのだ。
「法が定める割増賃金は過労の問題から企業側に課された“ペナルティー”であるはずなのに、いつの間にか労働者の“生活給”の一部となり、残業代を失うと生活が一気に苦しくなる正社員がたくさんいます。企業は<職務・役割給>の仕組みを明確に整えない限り、いくら業績がよくても優秀な社員を失うことになるでしょう。
労働基準法は労働時間の上限を規制しているだけで、いまでも5時間で仕事を終わらせて帰る社員がいても法に触れることはありません。それを企業が推進していないのは、成果を上げることよりも、働く時間の多さを重視しているからに他なりません」(溝上氏)
WEの導入を検討している企業は、一体、短時間でどれほどの成果を上げた社員を評価しようとしているのか。それは企業の規模や目指すべき方向性によっても違うはず。
「法改正する以前に社員の働き方を変える企業の自助努力が求められる」という溝上氏の指摘はもっともだろう。