問題は、そのフィクション化の背景に、「自分たちの国や民族はこうあって欲しかった」という「歴史塗り替え願望史観」があることだという。つまり、自国に不利な歴史、不名誉な出来事は見ないようにして、場合によっては歴史を捻じ曲げて理解してしまう傾向があるということだ。

 もちろん、自国の歴史をよく見せたいという欲求は、あらゆる民族・国家にあるだろう。しかし、韓国の場合は極端で、映画やテレビドラマだから許されるというレベルではない。韓国人自身が、こうしたドラマを真に受けて誤った歴史理解をし、さらにその韓流ドラマが日本でも人気を博すことで、誤解が日本人にも広がってしまう。豊田氏はその危険を指摘しているのだ(『本当は怖い韓国の歴史』祥伝社新書など)。

 江戸町奉行の大岡越前が人情味あふれる名判官(はんがん)だったり、8代将軍徳川吉宗(よしむね)が庶民生活にも通じた庶民的な名君だったとするわが邦の人気時代劇も、もちろんまったくの創作だし、為政者や政治家にはこうあって欲しいという願望の反映でもあろう。その意味では韓国の歴史・時代劇を一方的に裁断すべきではない。

 歴史認識や歴史教育の問題と、フィクションとしての歴史・時代劇は分けて考えるべきで、それぞれの価値はつねに固有のものとして尊重されるべきだ。
 
 しかし立場を変えて、日本が古代から朝鮮半島を完全に支配していたとか、朝鮮王朝の祖である李成桂(イソンゲ)は実は日本の後醍醐(ごだいご)天皇のご落胤だったという物語を作ったとしよう。いくらフィクションだからと断っても、「日本人は歴史を捏造(ねつぞう)する民族」だと韓国人が激昂するのは目に見えているし、国際問題にもなりかねない。
 
 歴史・時代劇を作る場合、それが民族の自意識やアイデンティティと関わってくるならば、物語の及ぼす影響、反響を無視した創作は非常に難しいということも、また事実なのだ。

※週刊ポスト2014年9月12日号

関連記事

トピックス

田中圭
《田中圭が永野芽郁を招き入れた“別宅”》奥さんや子どもに迷惑かけられない…深酒後は元タレント妻に配慮して自宅回避の“家庭事情”
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告(中央)
《父・修被告よりわずかに軽い判決》母・浩子被告が浮かべていた“アルカイックスマイル”…札幌地裁は「執行猶予が妥当」【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
ラッパーとして活動する時期も(YouTubeより。現在は削除済み)
《川崎ストーカー死体遺棄事件》警察の対応に高まる批判 Googleマップに「臨港クズ警察署」、署の前で抗議の声があがり、機動隊が待機する事態に
NEWSポストセブン
ニセコアンヌプリは世界的なスキー場のある山としても知られている(時事通信フォト)
《じわじわ広がる中国バブル崩壊》建設費用踏み倒し、訪日観光客大量キャンセルに「泣くしかない」人たち「日本の話なんかどうでもいいと言われて唖然とした」
NEWSポストセブン
北海道札幌市にある建設会社「花井組」SNSでは社長が従業員に暴力を振るう動画が拡散されている(HPより、現在は削除済み)
《暴力動画拡散の花井組》 上半身裸で入れ墨を見せつけ、アウトロー漫画のLINEスタンプ…元従業員が明かした「ヤクザに強烈な憧れがある」 加害社長の素顔
NEWSポストセブン
筑波大学の入学式に出席された悠仁さま(撮影/JMPA)
悠仁さま入学から1か月、筑波大学で起こった変化 「棟に入るには学生証の提示」、出入りする関係業者にも「名札の装着、華美な服装は避けるよう指示」との証言
週刊ポスト
藤井聡太名人(時事通信フォト)
藤井聡太七冠が名人戦第2局で「AI評価値99%」から詰み筋ではない“守りの一手”を指した理由とは
NEWSポストセブン
趣里と父親である水谷豊
《趣里が結婚発表へ》父の水谷豊は“一切干渉しない”スタンス、愛情溢れる娘と設立した「新会社」の存在
NEWSポストセブン
米利休氏のTikTok「保証年収15万円」
東大卒でも〈年収15万円〉…廃業寸前ギリギリ米農家のリアルとは《寄せられた「月収ではなくて?」「もっとマシなウソをつけ」の声に反論》
NEWSポストセブン
SNS上で「ドバイ案件」が大騒動になっている(時事通信フォト)
《ドバイ“ヤギ案件”騒動の背景》美女や関係者が証言する「砂漠のテントで女性10人と性的パーティー」「5万米ドルで歯を抜かれたり、殴られたり」
NEWSポストセブン
“赤西軍団”と呼ばれる同年代グループ(2024年10月撮影)
《赤西仁と広瀬アリスの交際》2人を結びつけた“軍団”の結束「飲み友の山田孝之、松本潤が共通の知人」出会って3か月でペアリングの意気投合ぶり
NEWSポストセブン
田村容疑者のSNSのカバー画像
《目玉が入ったビンへの言葉がカギに》田村瑠奈の母・浩子被告、眼球見せられ「すごいね。」に有罪判決、裁判長が諭した“母親としての在り方”【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン