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【書評】余命2ヶ月宣告された男性の実話に基づく半生綴った書

【書評】『小森谷くんが決めたこと』中村航/小学館/1512円

【評者】内山はるか(SHIBUYA TSUTAYA)

 本作はある30代前半男性の実話をもとに彼の半生を綴った、ちょっと変わった物語です。作者の前に現れた小森谷くんは〈僕、お医者さんに、余命2ヶ月って言われたんですよ。でも生き残っちゃいましたけど〉と言って、はにかむように笑います。一見普通のようですが、いやいやこれ普通じゃないでしょ。

 夢中になると周りが見えなくなってしまう小森谷くん。呑気で、生真面目。単純で思い込みも激しい。そして、小森谷くんは“フラれるベテラン”でもあります。

 1人の男の子が生まれて、やんちゃして、恋してふられ、夢見て破れ、そしてまた夢見て、いろんな人に出会って大人になっていく──こうして1人の人生を読んでいると、ものすごく親近感が湧いてきます。

 母親のこと、家族のこと、友達のこと、その年起こったことや流行、時代背景は私の世代とは少し違うのだけど、何故か重なってきます。なんだかまるで私も小森谷くんと長年友達のような気すらおきてきます。そしてどうしようもなく彼への親近感と愛おしさが込み上げてくるのです。これほど主人公を愛おしいと思える小説があっただろうか! それにしても、自分の半生が小説になるってどういう気持ちだろう。ちょっと恥ずかしいけれど…でも羨ましくも思えるのでした。

 本作の冒頭に「茫漠とした表情を浮かべた長身」の担当編集者が描写されます。私はこの担当編集者とお会いしたことがあり、茫漠とした(=ぼんやりして、つかみどころがないさま)表情というズバリな形容に大きく頷きつつ、2人のやり取りを思うと、吹き出してしまいました。

※女性セブン2014年10月2日号

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