比較対象の事例が古すぎたかもしれないので、もう少し後の時代のエロ系ギャグを振り返ってみる。メジャーどころでは、80年代にビートたけしの「コマネチ」、明石家さんまの「いらっしゃいまほ」、島田紳助の「さんちゃん、寒い」などがある。だが、いずれもさほどディープなエロではなかった。加藤茶の「ちょっとだけよ。あんたも好きねぇ」ほど、露骨でもなかった。
おいおい、これもありかよ、という驚きを覚えたディープなエロ系ギャグで真っ先に思い出されるのは、レイザーラモンHGだ。「どうもー、ハードゲイでーす!」とまんまの姿で登場して、腰を激しく振りながら「フォー!」と奇声をあげる。かなりぶっ飛んだギャグだったが、2005年の流行語大賞の「トップテン」受賞作に輝いた。
その翌年には、「ア゛ーッ!」と絶叫して、「にしおかぁ〜、すみこだよぉ〜」と名乗るSM女王様ギャグがシングルヒットした。オチは「満足かい?このブタ野郎!」。ハードゲイに負けず劣らずの激しさだった。
天津木村は覚えているだろうか。「なんだかイケそうな気がするぅ~。あると思います!」のフレーズでエロ詩吟をやっていた7:3分けのピン芸人。子供の人気があったかどうか不明だが、2008年にブレイクした。
あとは、2011年の流行語大賞「トップテン」受賞作。乙女キャラの楽しんごが、「ドドスコスコスコ」と3回唱え、胸の前でハートマークのつくりながら「ラブ注入」と言う、あれもすっ飛んだギャグだった。
私の記憶にあるものを挙げただけでも、ここ10年ほどの間にお笑い界はこれだけディープなエロ系ギャグを生んでいる。全員がいわゆる一発屋で、その後の活躍がイマイチであることはともかく、このようなお笑いが続々と登場してきた過去を考えれば、ダッチワイフ芸ぐらい平気の平左というエロ耐性がかなり前から我々の中についていたのかもしれない。
ある程度の経験値と想像力がないと笑えないので子供ウケはよくないだろが、妄想エロ歌芸でブレイク中のどぶろっくも、けっこうな女子高生人気を集めているそうだ。80年代だったら「ネクラ」で片づけられていただろうあの手の笑いが、今はメジャーで通用する。
「フォー!」「このブタ野郎!」「イケそうな気がするぅ~」「ラブ注入」、そして「ダメよぉ、ダメダメ!」「もしかしてだけど~♪」……。並べてみると、変態怪獣大行進といった感じだ。それでもPTA騒ぎにならない日本は、寛容で懐の深いカルチャーをいつの間にか育てあげたお笑い大国といえるのではないだろうか。