スポーツ

ソフトバンクのドラ1松本裕樹 怪我した肘を質問する記者に

 今年のプロ野球で、注目の安樂智大投手は楽天、有原航平投手は日本ハムが交渉権を獲得した。あなたが注目していた選手は指名されただろうか。高校野球取材20年、フリーライターの神田憲行氏が注目したひとりの選手を紹介する。

 * * *
 指名選手の名前を映すモニターに、ソフトバンクホークスの1位に盛岡大付属の松本裕樹投手の名前が浮かんだのをみて胸が熱くなった。この夏、私を救ってくれた選手だ。

 松本投手は岩手大会で150キロを計測、本格右腕として注目を集めた。甲子園の初戦前、松本投手の後ろに回ると背筋が盛り上がっているのがわかった。松坂大輔みたいだった。だが試合でフタを開けてみると、球速は130キロそこそこ。ときおり140キロ前後が出る程度で、変化球投手になっていた。

 原因は岩手大会の決勝で痛めた右肘だった。もともと野球センスは抜群なのだろう、そういう「手負い」の状態でも緩急とコーナーワークで初戦の相手の東海大相模を退けた。しかし、次戦の敦賀気比戦では打ち込まれて、1対16で大敗を喫した。

 投手の肩と肘の問題を取材していた私は、試合後、お立ち台の真ん前に陣取って松本投手に肘について取材した。その記事が「NEWSポストセブン」8月24日に書いた「高校球児の肩と肘 企業広告導入や観客席値上げで守れないか」である。

「肘はいつから痛いのかな」
「具体的にどこが痛いの」
「どういう動作をしたら痛い?」

 など、恐らく彼が触れて欲しくないであろう質問を、私は最前列から次々と浴びせていった。最後の夏の想い出も、本来の力を発揮できずに甲子園を去る悔しさも、質問しなかった。胸の中で、

「ごめんごめん、君は俺のこと嫌いだろう。でもこの質問は君の後輩たちの身体を考えるために必要な質問なんだ」

 手を合わせながら質問していた。

 取材中に松本選手に熱中症対策用のペットボトルの水が手渡された。質問を中断して、

「良かったら、飲んで下さい」

 と私がいうと、松本選手がお立ち台の上から私の目をまっすぐ見て、初めて微笑みながら、

「ありがとうございます」

 救われた、と思った。初めて見る松本選手の笑顔は愛嬌があった。

 入団してまず肘の具合のチェックからだろうか。春のキャンプからばんばん投げるというわけにはいかないかもしれない。他の新人選手がブルペン入りするのを横目で見ながら、ランニングする臥薪嘗胆の日々が続くかも知れない。

 指名直後に紹介された王貞治会長のコメントがまた、広くて大きい。

「ゆっくりやればよい」

 球界随一の人格者の言葉に偽善はない。言葉通り、ゆっくりやればいいのだ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

若手俳優として活躍していた清水尋也(時事通信フォト)
「もしあのまま制作していたら…」俳優・清水尋也が出演していた「Honda高級車CM」が逮捕前にお蔵入り…企業が明かした“制作中止の理由”《大麻所持で執行猶予付き有罪判決》
NEWSポストセブン
「正しい保守のあり方」「政権の右傾化への憂慮」などについて語った前外相。岩屋毅氏
「高市首相は中国の誤解を解くために説明すべき」「右傾化すれば政権を問わずアラートを出す」前外相・岩屋毅氏がピシャリ《“存立危機事態”発言を中学生記者が直撃》
NEWSポストセブン
3児の母となった加藤あい(43)
3児の母となった加藤あいが語る「母親として強くなってきた」 楽観的に子育てを楽しむ姿勢と「好奇心を大切にしてほしい」の思い
NEWSポストセブン
過去にも”ストーカー殺人未遂”で逮捕されていた谷本将志容疑者(35)。判決文にはその衝撃の犯行内容が記されていた(共同通信)
神戸ストーカー刺殺“金髪メッシュ男” 谷本将志被告が起訴、「娘がいない日常に慣れることはありません」被害者の両親が明かした“癒えぬ悲しみ”
NEWSポストセブン
ハリウッド進出を果たした水野美紀(時事通信フォト)
《バッキバキに仕上がった肉体》女優・水野美紀(51)が血生臭く殴り合う「母親ファイター」熱演し悲願のハリウッドデビュー、娘を同伴し現場で見せた“母の顔” 
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン
木瀬親方
木瀬親方が弟子の暴力問題の「2階級降格」で理事選への出馬が絶望的に 出羽海一門は候補者調整遅れていたが、元大関・栃東の玉ノ井親方が理事の有力候補に
NEWSポストセブン
和歌山県警(左、時事通信)幹部がソープランド「エンペラー」(右)を無料タカりか
《和歌山県警元幹部がソープ無料タカり》「身長155、バスト85以下の細身さんは余ってませんか?」摘発ちらつかせ執拗にLINE…摘発された経営者が怒りの告発「『いつでもあげられるからね』と脅された」
NEWSポストセブン
結婚を発表した趣里と母親の伊藤蘭
《趣里と三山凌輝の子供にも言及》「アカチャンホンポに行きました…」伊藤蘭がディナーショーで明かした母娘の現在「私たち夫婦もよりしっかり」
NEWSポストセブン
高石あかりを撮り下ろし&インタビュー
『ばけばけ』ヒロイン・高石あかり・撮り下ろし&インタビュー 「2人がどう結ばれ、『うらめしい。けど、すばらしい日々』を歩いていくのか。最後まで見守っていただけたら嬉しいです!」
週刊ポスト
2021年に裁判資料として公開されたアンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー氏の写真(時事通信フォト)
《恐怖のマッサージルームと隠しカメラ》10代少女らが性的虐待にあった“悪魔の館”、寝室の天井に設置されていた小さなカメラ【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン
寮内の暴力事案は裁判沙汰に
《広陵高校暴力問題》いまだ校長、前監督からの謝罪はなく被害生徒の父は「同じような事件の再発」を危惧 第三者委の調査はこれからで学校側は「個別の質問には対応しない」と回答
NEWSポストセブン