ライフ

「謎の進学校麻布」ほぼ満杯の学校説明会を実況中継してみた

 私立中高の学校説明会のシーズンである。コラムニストのオバタカズユキ氏が訪れたとある私立中学の「変な説明会」をレポートする。

 * * *
 著者が、私の知人であり、このNEWSポストセブンのレギュラー執筆者でもあるため、迷うには迷った。だが、書いた人が誰であろうと、その本の中身が無類におもしろく、かつ発売早々、各地で品切れ続出という現象をおこしているのだから取り上げても問題あるまい。

 神田憲行著『「謎」の進学校 麻布の教え』(集英社新書)が、大きな注目を集めている。中学受験の世界で男子御三家の1つとして名高い麻布(麻布中学校・麻布高等学校)の実態をルポした本なのだが、2年間かけた取材時の仮タイトルは「麻布って変」だったそうだ。

 読んでみると、たしかに「変」のオンパレードである。50年以上、東大合格者数ベスト10入りが続いている超進学校であるにもかかわらず、生徒たちはロクに勉強をしていない。著者が高校1年生に実施したアンケートによると、1日の勉強時間(授業以外で、試験前を除く)でもっとも多かったのは、「三〇分くらい」で、次点は「ゼロ時間」と「一時間」だ。

 生徒一人ひとりの自主自立の精神を尊重する麻布には、校則もないに等しい。例えば、服装についてはこんな調子だ。

<「服装は基本的に自由で、私服でも構いません。制服に近い標準服も用意してありますが、ボタンを一セット八〇〇円で販売しておりますので、ご兄弟の中学の学生服をお持ちの方は、そちらにボタンだけつけ替えていただくと安上がりになります」
 彦坂先生のとぼけた説明のたびに保護者席から笑い声が起きる。まるでトークショーのようだ。>

 どうやら学校説明会そのものも「変」らしい。今年はたまたま私も、都内の中高一貫校を何校か見学しているのだが、ユニークと評判の学校でも説明会は型通りなものだった。それが麻布の場合はまるでトークショー?

 本当か。書かれてある内容を疑ったわけではないが、だったらこの目で確かめたい。そんな気持ちがわいてきた。調べてみたら今がちょうど開催期で、誰でも予約なしの参加ができるという。ならばと、土曜日の昼下がりに開かれるリアルな麻布の学校説明会に、私も参加することにした。

 ちょっと道に迷って午後2時スタート直前に到着。もう会場の講堂1階席(定員900名)はほぼ満杯で、最後方の椅子にかろうじて着席することができた。会場を見まわすと、他校の学校説明会よりも父親らしき参加者の割合が多い。当然のことながら、たいていは息子連れなのだが、どう見てもまだ小学校3年生程度の男児がけっこういる。御三家を狙うなら、そのくらい早期に意識づけをする必要がある、ということだろうか。

 講堂の壇上向かって右手に椅子5脚。そこに校長、校務主任2人、教務主任、事務長の計5人が着席。すると、それまでざわざわしていた会場が静まった。そして、まず校長が、檀上中央で麻布学園創立者の江原素六の人物像や教育理念について語り始めた。なるほど、これが麻布の伝統と格式か……ではない。こんなに堅苦しくては、ちっともトークショーじゃない。

 本の取材時と今とでは校長以下のメンバーも違うので仕方ないかなと思いつつ、次の「麻布の現在」と題するスライドを使った学園生活の説明を聞く。担当の先生がレーザーポインターを片手に、校内施設や服装や学習カリキュラムなどについて解説。これも事務的な感じで最初は期待外れだったのだが、20分くらい経過した頃だっただろうか。1枚の動画で会場の空気が変わった。高校1年生の授業風景に、進学校らしくない生徒が映っていたのだ。

「えー、金髪の子もいますが、外国人ではありません(笑)。たぶん文化祭のために髪をこうしていまして、終わったら坊主にしたりします(笑)」

 本にも書いてあった。麻布はとにかく文化祭に力を入れる生徒が多い。特に文化祭実行委員会のスタッフは髪を派手に染めて、学園最大のイベント運営に全力を尽くすのだそうだ(なぜ髪を染めるのかは諸説あり)。

「あ、寝ている生徒もいますね。一番前の席ですが、(教師から)死角なんですねー(笑)」

 先生、調子が出て来たようだ。画像にネタ要素を見つけては、レーザーポインターをぐるぐるさせ、ちょっと楽しげに解説してくれる。

「こうして、ノートをとらないで、カメラで黒板を写している大バカ者もいます(笑)」(高校3年生の授業風景)

「弁当を持ってくることが基本なのですが、育ち盛りなので早々に食べて(笑)、昼も食堂で食べる生徒が多い。食堂にはアイスもあって、生徒の心が安らぐ場所です(笑)」(早弁をした生徒らのさらなる昼食風景)

「これが標準服です。入学して最初はみなさん喜んで作るのですが、1週間ほどで皆着なくなります(笑)」

 ドカンドカンとウケていたわけではないが、そのたびに会場は温かい笑いで包まれていた。1時間半の説明会に小学生たちは飽きまくっていたけれど、親御さんたちは満足そうだった。ヤンチャな生徒らがのびのびと学園生活を送っている様子に我が意を得たり、という感じだった。

関連記事

トピックス

“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
《ママとパパはあなたを支える…》前田健太投手、別々で暮らす元女子アナ妻は夫の地元で地上120メートルの絶景バックに「ラグジュアリーな誕生日会の夜」
NEWSポストセブン
グリーンの縞柄のワンピースをお召しになった紀子さま(7月3日撮影、時事通信フォト)
《佳子さまと同じブランドでは?》紀子さま、万博で着用された“縞柄ワンピ”に専門家は「ウエストの部分が…」別物だと指摘【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
一般家庭の洗濯物を勝手に撮影しSNSにアップする事例が散見されている(画像はイメージです)
干してある下着を勝手に撮影するSNSアカウントに批判殺到…弁護士は「プライバシー権侵害となる可能性」と指摘
NEWSポストセブン
亡くなった米ポルノ女優カイリー・ペイジさん(インスタグラムより)
《米ネトフリ出演女優に薬物死報道》部屋にはフェンタニル、麻薬の器具、複数男性との行為写真…相次ぐ悲報に批判高まる〈地球上で最悪の物質〉〈毎日200人超の米国人が命を落とす〉
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
松竹芸能所属時のよゐこ宣材写真(事務所HPより)
《「よゐこ」の現在》濱口優は独立後『ノンストップ!』レギュラー終了でYouTubeにシフト…事務所残留の有野晋哉は地上波で新番組スタート
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
早朝のJR埼京線で事件は起きた(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」に切実訴え》早朝のJR埼京線で「痴漢なんてやっていません」一貫して否認する依頼者…警察官が冷たく言い放った一言
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン