ビジネス

ダイエー創業者中内功氏 怒号鳴り響く恐怖の店内巡回の様子

 流通業界の再編はかつての1兆円企業をも飲み込んだ。イオンはダイエーの完全子会社化を発表。2018年までにダイエーの屋号もイオンに改めるという。創業者・中内功氏がダイエーに君臨していた時代のエピソードを、佐野眞一氏が綴る。(文中敬称略)

 * * *
 1980年2月、ダイエーは小売業界初の売上高1兆円を突破した。私が初めて中内に会ったのは、その年の4月3日、熊本店がオープンした際だった。私はこのとき、中内の“店内巡回”に初めて同行することが許された。そして、そこで見聞したものすべてに激しいショックを受けた。

 中内が最初に立ち止ったのは、当時まだ珍しかった手作りのパン売り場だった。中内は目測で約5メートル離れて目をつむり、あの大きな鼻でスーッと大きく息を吸い込んだ。そしてしばらく沈思黙考したあと、大きくうなずいた。合格のしるしだという。続いて天ぷら売り場。中内の顔がみるみる曇っていくのがわかった。ボソボソ声で売り場主任にこう怒鳴っていた。

「ええか、ヨーカ堂の天ぷら売り場では、ジューという天ぷらを揚げるうまそうな音をテープで流しているそうやないか。うちは何でそんなこともできんのや!」

 一番驚いたのは、野菜売り場だった。中内は店の一番前のザルに盛られたモヤシにつかつかと近づくと、売り場主任の頭からモヤシをザルごとぶっかけた。随行員に後からわけを聞いて、やっと中内の行動が理解できた。あのモヤシは、表面こそ鮮度がよさそうに見えますが、中はかなり傷んでいたようなんです。中内さんにはそれが許せなかった……。

 中内の“店内巡回”の話が出たついでに、中内が生涯敵愾心を燃やし続けたイトーヨーカ堂社長の伊藤雅俊の“店内巡回”の様子もちょっと紹介しておこう。売り場ごとにけたたましい癇癪玉を爆発させる中内と違って、無言で店内を巡回しながらふいに足を止めて売り場に近づき、棚を指でひと掃きするや、無言のまま埃のついた指を店員にそっと突き出す。これが伊藤のやり方だった。

 中内の憤激は一過性で雷親父を思わせるが、伊藤の怒りは真綿でソロリソロリと首を絞めにかかる鬼姑を彷彿とさせる。

※SAPIO2014年12月号

関連記事

トピックス

鮮やかなロイヤルブルーのワンピースで登場された佳子さま(写真/共同通信社)
佳子さま、国スポ閉会式での「クッキリ服」 皇室のドレスコードでは、どう位置づけられるのか? 皇室解説者は「ご自身がお考えになって選ばれたと思います」と分析
週刊ポスト
松田烈被告
「テレビ通話をつなげて…」性的暴行を“実行役”に指示した松田烈被告(27)、元交際相手への卑劣すぎる一連の犯行内容「下水の点検を装って侵入」【初公判】
NEWSポストセブン
Aさんの左手に彫られたタトゥー。
《10歳女児の身体中に刺青が…》「14歳の女子中学生に彫られた」ある児童養護施設で起きた“子供同士のトラブル” 職員は気づかず2ヶ月放置か
NEWSポストセブン
会談に臨む自民党の高市早苗総裁(時事通信フォト)
《高市早苗総裁と参政党の接近》自民党が重視すべきは本当に「岩盤保守層」か? 亡くなった“神奈川のドン”の憂い
NEWSポストセブン
知床半島でヒグマが大量出没(時事通信フォト)
《現地ルポ》知床半島でヒグマを駆除するレンジャーたちが見た「壮絶現場」 市街地各所に大量出没、1年に185頭を処分…「人間の世界がクマに制圧されかけている」
週刊ポスト
連覇を狙う大の里に黄信号か(時事通信フォト)
《大相撲ロンドン公演で大の里がピンチ?》ロンドン巡業の翌場所に東西横綱や若貴&曙が散々な成績になった“34年前の悪夢”「人気力士の疲労は相当なもの」との指摘も
週刊ポスト
お騒がせインフルエンサーのボニー・ブルー(インスタグラムより)
「バスの車体が不自然に揺れ続ける」“タダで行為できます”金髪美女インフルエンサー(26)が乱倫バスツアーにかけた巨額の費用「価値は十分あった」
NEWSポストセブン
イベント出演辞退を連発している米倉涼子。
《長引く捜査》「ネットドラマでさえ扱いに困る」“マトリガサ入れ報道”米倉涼子はこの先どうなる? 元東京地検公安部長が指摘する「宙ぶらりんがずっと続く可能性」
アドヴァ・ラヴィ容疑者(Instagramより)
「性的被害を告発するとの脅しも…」アメリカ美女モデル(27)がマッチングアプリで高齢男性に“ロマンス”装い窃盗、高級住宅街で10件超の被害【LA保安局が異例の投稿】
NEWSポストセブン
部下と“ラブホ密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(時事通信フォト・目撃者提供)
《ラブホ通い詰め問題でも続投》キリッとした目元と蠱惑的な口元…卒アル写真で見えた小川晶市長の“平成の女子高生”時代、同級生が明かす「市長のルーツ」も
NEWSポストセブン
韓国の人気女性ライバー(24)が50代男性のファンから殺害される事件が起きた(Instagramより)
「車に強引に引きずり込んで…」「遺体には多数のアザと首を絞められた痕」韓国・人気女性ライバー(24)殺害、50代男性“VIPファン”による配信30分後の凶行
NEWSポストセブン
本拠地で大活躍を見せた大谷翔平と、妻の真美子さん
《真美子さんと娘が待つスイートルームに直行》大谷翔平が試合後に見せた満面の笑み、アップ中も「スタンドに笑顔で手を振って…」本拠地で見られる“家族の絆”
NEWSポストセブン