一方、肩透かし気味だったのは動力性能。燃料電池車にはバッテリー式電気自動車と同様、電気モーター駆動のクルマならではの俊敏な運動性能を期待してしまうのだが、MIRAIの加速力はフルスロットル時でも、実用車として必要十分というレベルにとどまっていた。
5年ほど前、ホンダのセダン型燃料電池車「FCXクラリティ」を首都高速道路などでテストドライブしたときは、スロットルとモーターが直結しているかのような高応答性が至って楽しく感じられた。MIRAIの燃料電池スタックの出力は114kW(155ps)と、FCXクラリティの100kWと比べてもランク高いのだが、FCXクラリティより200kg以上重い車両重量が運動性能をスポイルしていた可能性が高い。
ちなみにMIRAIはエコ、ノーマル、パワーの3つの運転モード切り替え機構を持っているが、パワーでもエコでもドライブフィールにはほとんど違いがなかった。せっかく電気モーター駆動を行うのだから、パワーモードの時にはもっと急激にトルクが立ち上がるような演出があってもよかったのではないかと思われた。
総じて、MIRAIは水素燃料電池という、自動車用としてはまだ発展途上のパワーソースを用いながら、普通のクルマから乗り換えても何ら違和感のないハイレベルな乗り味に仕上がっていた。
一方、刺激的なドライブフィールや内外装のプレミアム感については、かなり控えめな演出。このあたりは、富裕層から強い支持を得ているアメリカのバッテリー式電気自動車、テスラ「モデルS」とはおよそ趣を異にしている。
700万円のクルマ相応の価値づけができているかといえば答えはNOだが、保守的なユーザーに抵抗感を抱かせないという目標は十分に達成されていた。
MIRAIは当面、官公庁や地方自治体などのパブリックユーザー向けを主体に販売されるため、味付けとしてはこれでいいという判断もあったのだろう。
オンロードにおける燃料電池スタックの性能、耐久性などの実証が進み、コストもさらに落とすことができれば、たとえばこのユニットを2個積めば一気に2倍の出力が得られる。一般ユーザーが高額車に求めるプレミアム感を持ったモデルが登場するのも、そう先の話ではないだろう。
トヨタ、経済産業省は、燃料電池車が一般に普及しはじめる時期を2020年以降とみている。その実現ための基盤技術がすでに確立されつつあることを証明するモデルというのが、一般ユーザーにとってのMIRAIの最大の存在意義と言えるかもしれない。