新しい技術によって従来の秩序や経験が通用しない場面を増やしている。年功が通用しない時代に、それでも年配者が生き残っていくための方法について、大前研一氏が解説する。
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ICT(情報通信技術)革命による「いつでも、どこでも、誰とでも」つながることができるユビキタス環境のもとで従来の秩序がすべて破壊され、年配者のシーケンシャル(sequential=順を追った)な知識や経験の蓄積を必要としない不連続の世界が到来して「年功」が通用しない時代になった。しかし、だからといって成果主義がよいかと言えば、それも違う。
なぜなら、成果主義には「誰がどんな基準で成果を測るのか」という根本的な問題があるからだ。では「秩序破壊の世界」で年配者が生き残っていくにはどうすればよいのか? 方法は二つあると思う。
一つはリタイア、すなわちビジネスの現場を新しい時代に対応できる若い人たちに譲り、自分は資金を提供するなどして後見役になる方法だ。そしてもう一つは、自分もその一部になることである。つまり、今までの染色体をすべて捨て去って自己否定し、自分自身がビジネス新大陸のサイバー社会の住人になるのだ。
ここで参考になるのはGE(ゼネラル・エレクトリック)のジャック・ウェルチの手法である。彼は、すべての事業部に「アンチ事業部」を作れと指示した。他社に否定された時は潰れる時だから“GEの事業を潰すとすればGEの人間であってほしい”ということで、各アンチ事業部に自社の既存事業を破壊する新しいビジネスモデルを考えさせたのである。
実は、アンチは自分でやるのが一番早い。たとえば、ジャック・ドーシーがツイッターに続いて創業したスクエアによる決済革命(注*)は、POSシステムを手がけている東芝テックなどが取り組めば、最も近道だった。しかし、東芝テックに自己否定は、なかなかできないだろう。